ここで実際に料紙をつくる作業の一部を見せてもらった。
まず和紙を、ガラスの作業台に置く。この和紙は四国の紙漉きの職人が漉いたものを仕入れているそうだ。
大きなバットで朱と白のグラデショーンを作り、このグラデーションを映し取るように、大きな刷毛(はけ)に染料を含ませる。これを和紙の上下にサッと引くと、にじみのある美しい紙が一枚できた。さらにその上にマス目状の金箔「切箔」をのせる。できあがったら、かたわらの毛せん(獣毛を原料とした敷物)の上にそっと乗せて自然乾燥させる。久さんの作業そのものが無駄がなく、流れるようだ。
これを繰り返し、あっという間に美しい紙が何枚もでき上がっていく。100枚作ったらどの紙も100枚同じように仕上げなければいけない、と久さんはいう。
また使われる切箔はあらかじめ竹の刀と鹿皮の台を使って、マス目状に切っておくのだという。それらを入れて出す竹の筒も、箔の種類によって何種類もある。箔を切りためておく作業も、10年やってやっと一人前になると、久さん。今はこの切る作業を、少しづつ後継の太郎さんに任せているところなのだそうだ。
ちょうど工房に入ってきた太郎さんが「切る作業はいつもやっていないと難しくて」と言った。
かな料紙を作る職人も減っているが、制作に欠かせない道具もまた貴重なものだ。工房にずらりと並んでいる刷毛も筆も、すべて職人さんの手仕事だという。しかし料紙をつくる材料や道具などを作る人が、どんどんがいなくなっている現状なのだそうだ。竹の刀など、久さんが自ら作る道具もあるという。