山形県北村山郡
1日最大8000本のだんごが売れ、多い時には年間24万人が訪れる山形県大石田町の最上川千本だんご。18年間行列が続く理由を知りたくて、現地でだんごを頬張った。
最寄りのICから【E13】東北中央自動車道(無料区間)「大石田村山IC」を下車
最寄りのICから【E13】東北中央自動車道(無料区間)「大石田村山」を下車
レンタカーで、山形県のほぼ中央に位置する大石田町に入る。町の北から南に流れる最上川沿いを進む。平日昼間のせいか、町なかにはほとんど人影が見えない。どんよりとした曇天ということもあり、なんとなく寂しく感じる。
しかし! 目指すところが近づいてくると、景色が一変した。大きな駐車場が車で埋まり、お店の前には人だかり。その様子を見て、「これがまさに……」と納得した。
僕の目的地は、最上川千本だんご。かつて1日1000本のだんごを売ったことから、そう名づけられたという。あとでわかることだが、僕が訪ねた日はおよそ3000本を売り上げ、15時ごろには完売で閉店していた。取材は16時からだったから、その時間に到着していたらだんごを食べられなかったことになる。恐ろしや!
野生の勘でその危険性を察知していた僕は、取材が始まる2時間前の14時頃に到着したので、行列に並ぶことができた。レジ周りにはたくさんだんごが並んでいて、どれもおいしそうに見える。
きっとレジの後ろに大きく張り出されているしょうゆ、ずんだん、ごま、あんこ、くるみ、ナッツが定番商品だろう。僕はこの6品と気になった「いちごくん」を注文した。
レジ担当の男性に「しょうゆ、ずんだん、ごま、あんこ、くるみ、ナッツといちごくんをください。店内で食べます」と注文したら、「そんなに食べられないと思いますよ。3本でおなかいっぱいになるから」と言われて、思わず「え?」と聞き返した。なぜなら、僕はどんな人からも「たくさん食べそう」と思われる見た目をしていて、これまでの人生で一度も注文時に「やめたほうがいい」と止められたことがなかったのだ。
なにはともあれ、取材なので定番メニューの撮影をしたい。正直にお伝えしようと、「今日、社長の取材で来た者です。撮影用にひと通り注文したいんです」とレジ担当の男性に小声で告げると、男性が顔をあげて「あ、川内さん?」。
なんと、最上川千本だんごの社長、五十嵐智志さんだった。社長自らレジに立っている! 僕はその事実に驚きつつ、許可を得て6本のだんごを受け取った。横から見るとわかるんだけど、どれも具材がだんごの全面にたーっぷり塗られていて、辞書のように分厚くなっている。おちょぼ口の人は全開にしないと食べられないだろう。
だんごのためにランチを抜いて、すっかり腹が減っていた僕は、まずあんこを手に取り勢いよくかぶりついた。その瞬間、まるでマントを翻したようにあんこの香りがフワッと広がる。お米の素朴な甘みを放つだんごは小豆の味をしっかり感じるあんこと相性抜群! 僕はホクホク顔であっという間に食べ終えた。
うんうん、これなら6本いけるな……と思ったものの、間もなくそれが過信だったとわかる。この後に食べたみたらし団子、いちごくん、どちらも個人的に「これまで食べただんごのなかでナンバーワンで賞」を授与したくなるレベルだった。その満足感とともに、押し寄せる満腹感。盛り盛りの具材とモチモチのだんごがお腹にたまり、地層を形成しているようだ。
正直に言うと、だんご6本ぐらい余裕だろうと思っていたのに、五十嵐さんの言う通り、3本でギブアップ……! 残りの3本をテイクアウトするため、パックに入れてもらった。間もなくして16時が近づき、店舗からすぐ近くの事務所を訪ねた。五十嵐さんに「本当に3本が限界でした」と告白すると、学生時代はレスリングで慣らし、今もがっしりした体系の五十嵐さんはニコリと笑ってこう言った。
「そうでしょ! 地元ではあのだんごをご飯替わりにする人もいるぐらいだから。1家族4人で、10本以上買っていく人もいるんですよ」
そう、これは長らく地元で愛され、主食にもなる超人気だんご誕生の物語。