やめるか、続けるか、なかなか覚悟が決まらないまま迎えた1999年、転機が訪れる。ある先輩からの紹介で、山形の天童温泉で開催されたビジネスセミナーに参加した。1泊2日で、3万5000円。経営が苦しかった五十嵐さんにとっては、大きな出費だ。なにかヒントがないかと、わらをもつかむような気持ちだった。
その想いが届いたのだろうか? その日、講師が事例として取り上げたのは、青森県横浜町にある豆腐屋さん「湧水亭」だった。もともと小川豆腐店という店名だった湧水亭は、豆腐を作るときにできる大豆の搾りかす、いわゆる「おから」を使ったドーナツ「卯の花ドーナツ」を大ヒットさせたお店として知られる。1日平均2000個、多い時には8000~9000個も売れるそうだ。
奇遇にも同じ豆腐店の話を聞き、居ても立っても居られなかった五十嵐さんは、セミナーが終わった後、講師のもとに駆け寄り、名刺交換をしながら、「うち大変なんです、どうしたらいいんですか?」と尋ねた。
その講師から紹介されたのが、山形県東根市で漬物の製造販売を行う壽屋の社長(当時)の横尾友栄さん。夫婦で訪ねると、「商品、製品の品質を上げる勉強会があるから、参加しませんか?」と誘われた。それが、「山形さらど事業協同組合」(現在はさらど塾として活動)。
この組合には、県内で食品を製造する中小企業が集っていた。その勉強会の核となるのが、「磯部理念」である。これは、『食品を見わける』『食品づくりへの直言』などの著書がある食品と貿易のコンサルタント、磯部晶策氏が唱えたもので、食品づくりの4条件、4原則からなる。
4条件とは安心して食べられること、ごまかしのないこと、味のよいこと、品質に応じた買いやすい価格。4原則とは原材料の厳選、加工段階での純正、時代環境に曲げられない一徹な姿勢、消費者との関係の重視。
この4条件、4原則を守ったうえで商品開発を行っているのがこの組合で、五十嵐さんは毎月の勉強会に欠かさず参加するようになった。その姿勢が認められたのだろう。壽屋の横尾さんが「湧水亭」の小川さんとつないでくれた。