私は旅の最後に「富山モスク」を訪れることにした。それまでは元コンビニだった居抜き物件を改装した簡易的な寺院だったのを取り壊し、約1年かけて同じ場所に新たなモスクを建設、2021年8月に竣工した。建物の扉を開けて靴を脱ぎ、絨毯の敷かれた広間に入ると、小さな子どもたちがアラビア語の勉強をしていた。私を見つけて歩み寄ると、人懐こい笑顔で「日本人?宇宙人?」と畳みかけてきた。それはかつて私がアラビアの街角で経験した、やんちゃな子どもたちとのやり取りを思い出させた。「オレ、小2」「今日幼稚園でフルーツバスケットやった!」「あたりまえやん」と、とにかく流暢な彼らの会話に耳を傾けていると、夕方の礼拝に参加するムスリムたちが続々とモスクに集まり始めた。ほとんどは男性だが、異教徒の私を見つけて話しかけてきてくれたり手を振ってくれたりと、誰もがフレンドリーだ。私の横でモスク設立の経緯を教えてくれた親切な紳士が、奥ゆかしい笑顔で「じゃあ、お祈りが始まるから」と立ち上がって祈りの輪に加わった。
イマーム(指導者)が前に立ち、肉声のアザーン(礼拝の呼びかけ)がモスク内に響き渡る。私は自分がどこにいるのかがわからなくなった。30分ほど礼拝を見届けてから外に出ると、薄暗い空に雪化粧をした山々が浮かび上がっていた。氷河に覆われたカラコルム山脈のように神々しく佇んでいたので、慌てて目をこすって二度見すると、それは冬を迎えたばかりの立山連峰だった。