同時進行で、アハルテケを受け入れる牧場探しにも着手した。夫に「住所不定」と言われながらも北海道から種子島まで全国を飛び回り、ようやく見つけたのが30年弱も放置されていた八戸の牧場跡だった。
「私がここを見に来た時はすごく荒れていて、草木が茂っていました。圃場もどこにあるかわからなくて、馬房の屋根がちょっと見えるぐらいだったんですよ。でも海を臨むこの景観が気に入って、ここにしようと決めました」
2018年、およそ23ヘクタールある牧場にイチから手を入れ、5頭のアハルテケを迎え入れた。長谷川さんが浜松ホースランド時代に飼っていた馬もいれて、総勢18頭の馬で牧場がオープンした。
長谷川さんは浜松を離れ、牧場で馬と寝食を共にしている。計6人のスタッフがいるが、早朝にエサをあげた後、放牧場に馬を放すのは長谷川さんの日課になっている。
長谷川さんは東京の上野出身で、結婚後に移り住んだ浜松も人口約80万人の町だ。日が暮れたら真っ暗になり、人工的な音や光がなにひとつない牧場での暮らしは寂しくないありませんか? と尋ねると、ニコリとほほ笑んだ。
「私たちは町に出れば好きなものも食べられるし、映画も観に行けます。でも馬たちは、自分で履歴書を持ってここに来たわけじゃないでしょ。だから、常に馬のことを一番に考えれば間違いないと思っています。ここには自然しかないけど、馬たちにとっては良い環境ですよね。私にとってもそれが大切なんですよ」
長谷川さんとスタッフはできる限り馬に配慮しながら繁殖に取り組み、2019年の夏にはアハルテケの子どもが2頭生まれ、さらに2020年には3頭生まれた。後から輸入した馬たちを加えて現在は12頭が牧場で過ごす。
長谷川さんの取り組みはアハルテケの原産国、トルクメニスタンからも注目を集めていて、2022年5月にはトルクメニスタンの駐日特命全権大使が牧場の視察に訪れている。