2020年、木下教授の退官に伴う研究室の閉鎖を機に、エディブルウェイは松戸市の市民活動プロジェクトとなった。江口さん、青木さん、渡邉さんと、千葉大学の学生たちが中心となって運営している。
青木さんと渡邉さんが運営メンバーとなってから始まったのが、農業の守り神「トムテ」作りだ。トムテはもともと北欧に伝わる、帽子を被った小さな妖精で農作物を守ってくれると言われている。
コロナ禍になり、みんなで食べることが難しくなった時、ハンドメイドが得意なふたりが指揮を取り、トムテをみんなで作り始めた。地域の間伐材を再利用し、大人も子どもも自分たちのプランターに住まわせるトムテを作る。運営メンバーの青木さんは、中学3年生の息子さんと一緒にWSに参加している。
「息子が小学校4年生の頃から、エディブルウェイの活動に参加しています。今は息子も一緒にトムテの材料を取りに行ったり、作り方を教えたりしているんですよ。いつか千葉大学の園芸学部に入ったら、なんて冗談で言っています」
今、運営メンバーが企画しているのは「種と苗の交換会」だ。これまでは「配布会」として運営が用意したものを配ったり、一緒に植えたりしてきたが、それを「交換会」とすることで、自分たちで採った種や苗を持ち寄る形を模索している。
「市民活動になっても継続していくために会費を取ろうかと考えたこともあったんです。でも最近、自分のところで育ったものから取った種や育てた苗を持ってきてくれる人たちがいて。これは、種がちゃんと取れる苗を買って、みんなに種を取ってもらえば会費を取らなくてもやっていけるんじゃないか、と考えてます」
実は発足の翌年、2017年にエディブルウェイはグッドデザイン賞を受賞している。食べられる景観づくりによる町の緑化だけでなく、住民の食育やコミュニケーション、いざとなった時の食料としての機能など、多くの可能性が受賞の理由だった。
「都内などから 『やってみたい』とお声がけいただいて講演もしています。同じ取り組みをする地域が増えていくのは嬉しいです」
江口さんの想いが種となり、少しずつ芽が出て、青木さんや渡邉さんを始めとした町の人々と一緒に育って。エディブルウェイはこの先、どんな花を咲かせていくのだろう。これからの関わりを聞いてみると、青木さんは「エディブルウェイのメンバーとは、もう友達だから」と笑った。
「活動のためにっていうより、私たちが楽しんでいたらずっと続いていくんだろうなって感じています。みんなでよく話しているのは、いつかコミュニティカフェを開いてみたいということ。苗や種、プランターが買えて、そこで栽培したものを調理して食べられるような場所を持つのが、いつかの野望ですね」
江口さんも頷きながら、続ける。
「イベントやります! というより、軒先や道端でうっかり出会っちゃうのが好きなんです。息苦しさのない、すれ違ったら挨拶するくらいのゆるいつながりができてるといいなと思います。エディブルウェイも無理なく続けながら、このエリアに限らず、身近なところで野菜を育てるのが普通のことになるといいのかなって思ったり。楽しいですし、育ててると」
そう、育てることは楽しい。芽が出て、花が咲いて、実がなっていく、ひとつひとつが喜びに溢れている。それを個人で楽しんでもいいし、ご近所さんと会話をしてもいいし、町全体で盛り上がってもいい。この「公と私のほどよい距離感」がエディブルウェイが心地よい秘密なのかもしれない。松戸の軒先で育っている野菜と一緒に、少しずつ地域の人々のつながりも大きく育っていく。