未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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軒先の野菜といっしょに育つ町 EDIBLE WAYをたどりながら

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.214 |25 July 2022
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#4緑を残す、初めての園芸プロジェクト

ある日、江口さんは阿佐ヶ谷住宅の住民たちがおこなう「緑の記録」という活動に参加する。「緑の記録」は阿佐ヶ谷住宅の解体に備え、樹木の移動が速やかにできるように樹木の場所をマッピングする活動のこと。緑をどうにか残したいという近隣住民の思いからの活動だった。

「樹木の移植はお金がかかるし、移植先を見つけるのも大変だろうなと思って、なにか自分でもできることはないかなと考えた時に、ふと挿し木ならできるんじゃないかって思い浮かんだんですね。枝を切って土に挿しておくと苗木になるから、もとの木を救うことはできないけれど、引っ越していく人たちにも渡して次の場所に移すことができるんじゃないかって提案しました」

「えだはプロジェクト」と名付けた活動では、剪定で落とした枝などを挿し木にしていくことに。挿し木ならすぐにできるとは言ったものの、江口さん自身も挿し木については初心者で、プロジェクトとして園芸に関わったのはこれが初めてだった。

「園芸のプロというわけではないので、挿し木について図書館で調べたり、造園屋さんに挿し木しやすい木や方法を聞いてみたりして。だけど、いまいちよくわからないから調べていたら、千葉大学園芸学部にある“園芸別科”を見つけました」

千葉大学園芸学部園芸別科は、農業経営者、造園技術者を養成する2年制の専門学校のようなもので、ウェブサイトには造園実習の様子と「社会人も大歓迎」の文字があった。すぐに阿佐ヶ谷住宅と「えだはプロジェクト」についてメールを送ったところ、研究生として実習に取り組むことになった。これが千葉大学園芸学部との出会いだ。

結局、阿佐ヶ谷住宅は2013年に解体が決まり、住民たちは立ち退きを余儀なくされた。惜しまれつつも消えた阿佐ヶ谷住宅だが、その後も江口さんたちが育てた苗は人々の手に渡り、阿佐ヶ谷住宅の思い出と共に引き継がれている。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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