食べられる景観になった、と感じたのはいつ頃ですかという質問に、江口さんは迷いながら「2、3年かなあ」と答えた。
「みんなで新しく苗を植えるイベントの時に、青木さんが『なんだか景観になってきたね』って言ってくれたのを覚えてます。たしかに、種と苗を配布するといえば人が集まってくれて、道を歩けば誰かしらと野菜の話をしていると感じ始めたのはその頃ですね。採れた野菜を持ち寄って、鍋やそうめん大会もしたんですよ」
みんなで育てて、みんなで作って、みんなで食べる。コロナ禍で、今は調理イベントはできていないが、「都会でありながら植物が近く、それをみんなで享受する暮らし」をエディブルウェイはこのエリアにもたらしているようだ。
参加メンバーのなかには保育園もあり、2歳児が日々の水やりをしているそう。みんなで育てたオクラでスタンプを作ったり、生まれた芋虫をアゲハ蝶になるまで観察したり、自然とのふれあいや食育に大きくエディブルウェイを活用しているという。娘さんが赤ちゃんの時から参加している渡邉さんも、子どもたちへの影響について話してくれた。
「娘はエディブルウェイを始めてから、自分で野菜を作ることが楽しいみたい。他にも微生物に興味を持ったり、蛙を飼って植物についた虫を餌にしてあげたりしています」
エディブルウェイがあることで、子どもたちの暮らしが豊かになっているエピソードがもうひとつ。エディブルウェイに初期の頃から参加している、ベテランの木津奈緒子さんにお話を伺うと「近所の子たちが野菜を見にきてくれるんですよ」と嬉しそうだった。
「以前、外に出てみたら4歳くらいの子がうちのプランターに生えていたブロッコリーとお話ししていたんです。ブロッコリーが好きだって言うから、一緒に手を添えて、ハサミで切ってあげてね。それからは、いつも『こんにちは!』って声をかけてくれるようになりました」
木津さんの家の前には大きな布プランターが並び、菊芋や里芋、アーティチョークなどの珍しい野菜まで育っている。なるべく変わった野菜や、子どもたちが好きそうな野菜を育てているという。ごぼうの花が咲くだけで、子どもたちにとっては大発見なのだ。
ブロッコリー好きの子のお母さんから、ブロッコリーを頬張る子の写真とお礼のメールが江口さんにも届き、嬉しい気持ちになったと振り返った。
「木津さんのように園芸が得意な方がいるので、園芸が未経験の人も見よう見まねでやってみたり教えてもらったりしながら、園芸を楽しんでいるような気がします。私は園芸学部ではあるけど地域計画が専門なので、園芸に関しては期待されるほどはできなくて……。植え方や土づくりは、地域の方々にたくさん教えてもらってます。最初はみんな、園芸学部の子たちがやりたいっていうから教えてくれるのかと思いきや、『あれ、この子たちなにも知らないぞ』って思ったんじゃないかと……」
そう苦笑いする江口さんだが、教える・教えてもらうの一方通行な関係にならなかったからこそ、今のエディブルウェイが成り立っているように思う。提供者とお客さんではなく、みんなで教え合って学び合う環境が、参加者にとっても楽しいのではないだろうか。