未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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軒先の野菜といっしょに育つ町 EDIBLE WAYをたどりながら

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.214 |25 July 2022
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#2ロシアにあった森との暮らし

エディブルウェイは、千葉大学園芸学研究科・木下勇教授の地域計画学研究室で、コミュニティスタディグループが、研究の一環として2016年に立ち上げたプロジェクト。発起人のひとりが、当時大学院生だった江口亜維子さんだ。

真ん中がエディブルウェイの発起人のひとり、江口さん。

エディブルウェイの始まりを話す時、舞台は千葉県の松戸市から、遠くロシアのチュヴァシ共和国まで飛ぶ。

武蔵野美術大学建築学科を卒業後、設計事務所に就職し、地域計画などに携わっていた江口さん。ロシアのチュバシ共和国の都市開発計画に関わることになり、ロシアを訪れたことが彼女の価値観を大きく変えた。

「『ゴルゴ13』を愛読していたので、ロシアにはスパイとか軍事組織とか怖いイメージがあったんですけど、行ってみたらぜんぜんそんなことはなくて。都市だけど緑が多くて、ちょっと裏に入っていくと畑があって、鶏がいるような場所。まちの人たちもフレンドリーでしたし、とても牧歌的で自然豊かな場所でした。出張した日本人チームは夜中まで残業しているのに、現地の人は夕方4時くらいになると『お疲れ』ってみんな森に入ってバーベキューしてるんですよ。なんて豊かな暮らしをしているんだろう、この人たちは! って思いましたね。その時、都市だけど森の近くに暮らすっていいなと思って」

また、ロシアの人々が持つ別荘「ダーチャ」の存在も、江口さんを驚かせた。「ダーチャ」はもともと貴族のための別荘だったが、旧ソ連時代には国が土地を分配して一般市民でも自分の別荘と畑を持つようになったもの。多くのダーチャでじゃがいもやキャベツなどの作物が育てられ、ロシア革命やソ連崩壊の頃に、人々が生き延びられたのはダーチャで食料を作っていたからだという話もあるほどだ。

「ダーチャや森が身近にある暮らしがとても魅力的に思えました。一方で、新しい都市計画ではこんな暮らしを提供できるのだろうか、今ある豊かな暮らしが失われてしまうんじゃないかと思えて、都市計画ってなんなんだろうと考えるようになりました」

植物が身近にある暮らしと共存できる都市計画について江口さんが考えを深めていったのにはもうひとつ、江口さんがかつて暮らした、東京都杉並区にあった団地、阿佐ヶ谷住宅の存在も大きく影響していた。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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