未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
213

神奈川県足柄下郡真鶴町

神奈川県西部の港町、真鶴町には本屋がない。いや、正確には”まだ”なかった。真鶴に移住した夫婦が、複合本屋「道草書店」を6月23日にオープンするまでは。開店を控えた5月の晴れた日、これまでの道のりと本屋への想いを聞くために、彼らが魅了された町・真鶴に降り立った。

文= ウィルソン麻菜
写真= ウィルソン麻菜
未知の細道 No.213|11 July 2022
  • 名人
  • 伝説
  • 挑戦者
  • 穴場
神奈川県足柄下郡真鶴町

最寄りのICから【E84】西湘バイパス「石橋IC」を下車

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#1“呼ばれた”真鶴の地

道草書店の店主、中村竹夫さんと道子さん。

都会からほんの小一時間しか離れていないのに、真鶴はなんだか太陽が近いような気がした。駅前のゆるやかな坂道を下っていくと、まだ海は見えないけれどほんのり潮風を感じて、いつもより大きく息を吸い込む。

真鶴駅から徒歩5分。坂道を下り終えた大きな曲がり角に、オープン前の道草書店はあった。出迎えてくれたのは、中村竹夫さんと道子さんのご夫婦。ふたり揃って真っ白なTシャツが爽やかだ。

「もともと電気屋さんだった建物をリノベーションして、軒先に取り付けた屋根は道のカーブに合わせて丸くしたり……」

外観の話を伺っていると、曲がり角の奥から日焼けしたおじちゃんがキックボードに乗ってスイーッとやってきた。どうやら「本屋のオープンはまだなのか」と聞きにきた様子。少し話して戻ってきた竹夫さんが「実は話すのは初めての方です」と笑うので、あんな友達のように話しかけていたのに! と驚いた。と同時に、ふたりが惚れ込んだ真鶴の魅力の一端に触れた気がした。

優しく包み込むイメージで取り付けたという屋根。

竹夫さんと道子さんが、当時3歳だった娘さんと真鶴に移住してきたのは2020年1月のこと。その時のことを振り返りながら「真鶴に“呼ばれた”という感じ」と竹夫さんは言った。

「移住先を探していくつかの町を見に行ったけど、しっくりくる場所がなかったんです。でも真鶴に来て、ここのすぐ近くの三ツ岩海岸に行った時に『あ、ここにしよう』ってピンときて。妻も同じように感じていたので、すぐに物件を探し始めました」

その翌週には物件を決め、なんと3カ月後には移住した。暮らし始めて2年、「やっぱり真鶴の水が合っている」と話す。

ふたりに促されて店内に入ると、外の眩しい日差しから一転、落ち着いた雰囲気の室内にホッとする。入り口側の土間部分が本屋で、奥が小上がりの和室になっていた。本屋エリアには、話題の本だけでなく、「へえ、こんな本あるんだ!」と思うような少し変わった本もたくさん。そうそう、こうやって本屋さんで知らない本と出会うのが好きなんだよな、と本好きの心をくすぐるラインナップだ。

選書はオールジャンル、リトルプレスや郷土本も増やしていくとのこと。

奥の小上がりはカフェスペースになっており、真鶴の珈琲店「watermark」の珈琲豆を仕入れている。道子さんが淹れてくれたアイスカフェラテを飲みながら、ふたりが「本屋になるまで」の道のりをゆったりと聞き始めた。

本屋の奥の座敷がカフェエリア。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。