初出店の1ヶ月後、竹夫さんの元に一本の電話が入った。隣町の湯河原で、こども図書館「こみち文庫」を運営している神保和子さんからだった。
「『こども図書館を引き継いでくれないか』って言われました。とても必死な声でね……」
「こみち文庫」を運営してきた神保さんは、元小学校教員。退職後、1995年から27年ものあいだ、毎週土曜日に自宅を図書館として子どもたちに開放してきた。高齢になり後継者を探していたが、3000冊を超える本を引き継げる人がなかなか現れなかったそうだ。そんなときに真鶴のローカルメディアで道草書店のことを知り、「この人たちなら!」と電話をかけてきたのだった。
「まずは一度見に行ってみようとご自宅に伺いました。実際に集まった本を見て、お話を聞いて、すぐに『やります』ってお伝えしたんです。神保さんにお会いして、これまでの歴史を聞いたら、ここまで続いてきた子どものための営みを途絶えさせるわけにはいかないな、と」
小学校教員だった神保さんだからこその選書のセンスと、27年前から保管されている貴重な本の数々。それらはもちろんのこと、ふたりが残さなければと思ったのはこども図書館の存在そのものだった。
「小さい頃に『こみち文庫』に通った高校生や大学生が読み聞かせボランティアをしたり、地域の高齢者が子どもたちの相手をしたりしていたんです。子どもがただ本を読むだけじゃなく、遊んだり話したり、本を読んでくれる人がいる環境で、まさに“育っていく”場所。学校でも家庭でもない第三の場所として、この循環は続けていきたいって思いましたね」