青森県八戸市
盲目の女性が、口寄せをおこない、死者の声を聞くイタコ。青森県の南部地方には、近世から続く民間信仰として、かつてたくさんのイタコがいた。しかしいまや携わる人は数少なくなり、なかでも盲目のイタコは一人だけと言われている。それを教えてくれた八戸在住のカメラマンたちとともに、「最後の盲目のイタコ」と言われている中村タケさんに会いに行った。
最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「南郷IC」を下車
最寄りのICから【E4A】八戸自動車道「南郷IC」を下車
深夜。私は遠く離れた北の街、八戸で酒場をハシゴしながら、知り合ったばかりの地元のカメラマンたちと呑んでいた。
3軒目の酒場の看板は、〈Deep八戸 洋酒喫茶「プリンス」〉。裏路地にあるそこは、知る人ぞ知る八戸の名店であり、いつも混んでいるのだという。派手なシャツのおしゃれなマスターが、さっとオリジナルのカクテルをつくってくれて、目の前に出してくれた。
なぜ私がこんなにディープな夜の八戸で、出会ったばかりの人たちとお酒を酌み交わしているかというと、それにはちょっとしたわけがある。
私は、ついさっき八戸のラジオ局BeFMでの収録が終わったばかり。出演の機会をつくってくれたラジオパーソナリティで、凄腕の写真家でもある二ツ森護真(ふたつもりまもる)さんとともに、収録後、夜の街へと繰り出したのであった。
1軒目の店で、二ツ森さんこと通称マモさんが、「こんど一緒に二人展をやる予定のカメラマンを紹介します」といって友達を呼びだした。
そうして現れたのが同じ八戸の写真家の烈くんこと、中村烈さんだったのだ。
烈くんもつい最近、オンライン写真コンテンスト「IMAnext」で受賞するなど、精力的に活動している写真家だ。
その後2軒目と繰り出して、今は3軒目のここ、プリンスにいると言うわけだ。
4月16日から青森市の国際芸術センター青森(通称ACAC)で私の写真の展覧会が始まったばかりだったこともあり、私たちはお互いにどんな作品を撮っているのか? という話で盛り上がった。そうこうしているうちに、また別の写真仲間がふらりと「プリンス」にやってきたりして、飲み会の輪が自然に広がっていく。「今日はカメラマンがたくさんだね」とマスターとママがいった。
さて青森県は厳しい自然や、近世から続く信仰、習俗などの要素に満ち溢れた地域だが、なかでも前から気になっていたのはイタコという民間信仰のシャーマンだ。死者の魂をおろして依頼した人間と対話する「口寄せ」のことを、知っている人も多いだろう。昔は目が見えない女性の職業のような役割も果たしていた。昭和30~40年代の最盛期には数十人いたというが、今は晴眼者も含めて数えるほどだという。
話の中で、いつか青森のイタコを取材してみたいんだ、という私に、烈くんは「八戸の南郷に、最後の盲目のイタコと言われている人が住んでいるよ」と言った。烈くんは、その人を追いかけて写真を撮り続けているのだと言う。
最後の盲目のイタコとは、どんな人なんだろうか。会ってみたい。
今度ぜひ、一緒へ連れて行ってほしい、と頼むと、烈くんは快諾してくれた。「あら、僕もいっしょに行こうかな」とマモさんも言う。街の中心部から少しはなれた八戸市の南郷はマモさんが育った場所でもあるという。
よし! じゃあ、3人で行こう。
私は八戸再訪の約束をして、夜は更けていった。