未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
212

イタコに会いに カメラマンたちとゆく小さな旅

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子(クレジットないもののみ)
未知の細道 No.212|27 June 2022
この記事をはじめから読む

#6八戸の酒場、再び

「今日はいい写真が撮れたなあ」と街中の居酒屋で、マモさんと烈くんは、酒を飲みながら私を見て言う。
「え! なんで? 何が?」と問うと「口寄せしている真っ最中の、イタコの背中を触る人は、めったにいない」と二人は笑っていた。

「いやー、だって、びっくりしたもの。鳥の話とか! 墓参りの話とか!」と私はいった。しかし烈くんが言うには、実は口寄せで降ろされた先祖は、「鳥になって見守っている」と言うことが多いのだそうだ。

でも、私の心の奥で、タケさんの口から出た「ツバメ」という言葉が、響いたのは間違いない。だって、おじいさんがツバメを大好きだったのは、私と母しか知らないのだ。こうした言葉を紡いで懐かしい死者を思い出させ、生きている人の心を温かくさせる。それがイタコの仕事だとしたら、それはなんという素晴らしい職業だろう。

「昔から、地域のカウンセラーみたいな、そういう職業だったんだよね、イタコは」と二人も言った。そして烈くんはこう続けた。
「タケさんはなるべくたくさんの人を救いたいから、できるだけあのおうちにいて、お客さんがやってくるのを待ってるんだ、って言ってたなあ」

〈家に行けば会える〉とは、つまり電話も約束もいらない、そんな昔ながらのやり方で、訪れる人たちを迎え入れ、タケさんは日々自分のできる仕事をしていく、そういうことなのだ。そうか、かっこいい仕事人なんだ、タケさんは、とあの柔和な笑顔を思い出した。

「ところでさ、マモさんはいったい、いつあの部屋に来たんですか?」と言うと、マモさんは「完全に気配を消して入りました」などと言っている。さすがカメラマンだなあ! そんなことを言いながら、みんなで八戸のおいしい海鮮をたくさん食べた。

さて1軒目で十分飲み食いしたので、そろそろ2軒目にいかないと! となった。八戸に来たんだから、やはりプリンスに行きたい! と私は頼んだ。だって、今日の旅は3週間前のプリンスの夜から始まっていたのだから。

だが、しかし! プリンスに行ってみると、なんとお店は超満員で入れなかった。どうやら東京から有名人がお忍びで来ていて、今夜は特に賑わっているらしい。入れないのは残念だけど、プリンスが繁盛しているのだから、それはそれでよし! と思った。

ママが外まで出てきてくれて、「今日は混んでて、ごめんね!」とマモさんと烈くんに謝っていた。「また、きますよ!」とずうずうしく横から口を挟んだ私を見て、ママは「あれ? 誰だっけ?」と不思議そうな顔をしている。

一見さんだから、覚えてもらえなくてもしょうがない。そのかわり、また八戸にこようと思った。タケさんに会いに、タケさんを通して死んだ人たちに会いに、それからこうしてできた八戸の友達たちや、この店の人たちに会いに、また来よう。そのころにはえんぶりも、クラブも、復活しているといいな。

いや、その前にまずは家に帰って、おじいさんのお墓参りだな。
そんなことを考えながら、もと来た夜道を、みんなと歩いていった。

プリンスの前でママ(右から二人目)と。マモさん、烈くんの友達も一緒に。
このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。