未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
212

イタコに会いに カメラマンたちとゆく小さな旅

文= 松本美枝子
写真= 松本美枝子(クレジットないもののみ)
未知の細道 No.212|27 June 2022
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#5タケおばあちゃん

(撮影:二ツ森護真)

ちょっと放心状態のまま、隣の部屋のこたつに入ってタケさんにいろいろなことを質問した。仕事を終えて、いつの間にかやってきていたマモさんも部屋の隅に座っている。口寄せのお礼に、前もって烈くんに教えてもらった相場の金額といわれる5000円を用意して、タケさんに渡すと、「ありがとうね」と言ってタケさんは受け取った。

「失礼なことを聞いてもいいですか」と私が口を開くと、タケさんはニコニコしながら「まずは聞いてみて」という。「いつから目が見えなくなったんですか」と聞くと「3つの時から」とタケさんは答えた。

そしてタケさんはいろんなことを教えてくれた。病気で目が見えなくなったこと。旦那さんや子どもも孫もいること。昔は他のイタコたちと共に、恐山や五所川原の川倉地蔵尊、お隣の岩手県などいろんなところにいって、口寄せしたこと。今はここで一人暮らしをしていること。夕方になると息子さんが薬を飲ませに来てくれること。頼まれれば占いもすること。

占いもイタコの仕事のひとつだと言うことを知って、びっくりした。どんな占いをするのか? とさらに聞くと、「よくあるのは結婚のこととかだねえ、誰かとか、いつとか」という。私は独身なので、「じゃあ、次に来た時はそれを占ってもらおうかな」と言うと、「あれ! まあ! それはのんきなことだこと!」と言って、にっこりと笑っている。

「さっきはおじいさんが降りてきて、本当にびっくりした! 早く帰ってお墓参りに行って、おじいさんにあやまらなきゃ!」という私に、「お墓にお茶をお供えしたら、それをそこで下げて、いただいてきていいんだよ。そうやって行けば、仏様はよろこんでくれるんだよ」とも教えてくれた。

あっという間に日も傾いてきた。烈くんの差し入れのお菓子を食べながら、ひとしきりおしゃべりして、とても名残惜しいけれど、そろそろ帰ることになった。私はなんだか、すっかりここが居心地よくなっていた。近所の人たちがしょっちゅう相談ごとをしにくる、という烈くんの話が、よくわかったような気がした。

つまりタケさんはイタコであり、そして近所に昔からいる、信頼できる優しいおばあちゃん、なのだ。ここでイタコのタケさんを通じて死者とお話しする、あるいはタケさん本人と話をしたり相談することが、人の気持ちを安らかにさせる、ということなんだとわかった。

「今日は遠くからきてくれてありがとうございました」というタケさんの手を握って、思わず私は「タケおばあちゃん、またここに遊びに来てもいい?」と尋ねた。するとタケさんは優しく「はい、またきてね」と言ってくれたのだった。

(撮影:中村烈)
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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