興奮して寒さを忘れ始めた僕が次に向かったのが、本日のメインイベント、「マイナス41度体験」。赤や青にライトアップされた怪しげな部屋に入るとボタンがある。それを押すと、風速20メートルを超える強風が頭の上から吹き付けてくるという仕掛けだ。風速1メートルで体感気温が1度下がるので、マイナス20度プラスマイナス20度強で、マイナス41度の世界を味わえるというわけ。
アイスパビリオンの入り口には、子どもたちが裸でマイナス41度を味わっている写真があった。俺にもできるかな、と思っていたけど、写真を撮ってくれるという今野さんがカメラを持ってスタンバイしていたので、とりあえずダウンジャケットだけ脱ぐことにした(決してビビったわけではない)。
ボタンを押すと、ゴー!!!!! とすごい勢いで頭上から風が出てくる。1、2秒もするとそれまでの人生で一度も感じたことのない冷気がカラダを包み込む。写真を撮ってもらうんだから動きを止めなきゃと、ほんの数秒、静止した。その後は黙って立っていられなくて、その場で激しく足踏みをするけど、そんなのは無駄な抵抗だ。
トレーナーと防寒下着を貫通して、カラダが凍りつき始めている気がする。映画『アナと雪の女王』のラストで、アナの身体がパキパキッと凍りつくシーンがあるけど、あんな感じ。自然と「おおおおおおおおお」という声が漏れる。もはや、「寒い」「冷たい」「痛い」という感覚じゃない。カラダが発しているのは、「ここにいちゃダメ! 絶対!」という黄信号だ。ウルトラマンのカラータイマーなら、激しく点滅するだろう。人生のタイムリミットがそう遠くない感じ。
強風は10秒で止まる。僕はピンポンダッシュする小学生よりも速く自分のダウンジャケットを置いた場所に駆け寄り、0.1秒で羽織った。スッとカラダが温まり、吐息が漏れる。その吐息すら、冷たい気がする。マイナス41度からマイナス20度の世界に戻ると、あれ、ここはそんなに寒くないなと感じた。恐らく、またカラダの機能がバグってしまったのだろう。
今野さんに「どうでしたか?」と聞かれた僕は、「ヤバいです、マジヤバいです」としか言えなかった。想像を超える体験をした時、ライターも語彙が乏しくなる。
なお、アイスパビリオンはおもてなしが行き届いた施設なので、このアイスホールのなかに「ホットルーム」がある。そこは暖房が効いていて体を温めることができるから、あなたが雪の女王になりそうになったら飛び込むといい。
1902年に思いを馳せる。ダウンジャケットもエアコンもない当時の旭川の人たちはこの超極寒にどうやって耐えたのだろうか……。