アイスパビリオンは、上川駅から車で10分弱のところにある。1991年、館長の帆苅正男さんが私費を投じて建てたミュージアムだ。
外観からは、どういう施設かよくわからない。電飾でキラキラした通りを進んでいくと、たくさんの防寒着が用意されていた。薄着の人、寒さに弱い人にはここで防寒着を貸してくれる。僕は冬場にたくわえたミートテックがカラダを守ってくれるので、手袋だけ借り、あとは都内で冬のシーズンにしている服装、ダウンジャケット、トレーナー、防寒下着、下半身は温かい素材のズボン、防寒下着のままで足を踏み入れた。
だんだん冷たい空気が立ち込めてくる。そうして間もなくすると、「ここから先はマイナス20度」と書かれた宇宙船のような扉が! それを開けると、目の前に現れる氷の世界! ここは室内。でも、見渡す限り氷なのだ。まるで、氷の鍾乳洞である。「どうですか? 寒いですか?」とスタッフの今野亜希さんが素敵な笑顔で僕に尋ねた。
千葉で育ち、バルセロナでの4年を経て2010年から東京で過ごす僕にとって、マイナス20度は、未体験のゾーンだ。とんでもなく寒いイメージがあったけど、ぶっちゃけ、ギャーッサムイーっと騒ぎ立てるほどじゃない。ただ、空気がずいぶんとヒンヤリとしていて、深く息を吸うと体のなかがスーッと冷えていく感覚だ。
今野さんには悪いけど、「なんだ、それほどでもないな」となめている自分がいた。しばらくして、その余裕が単なる勘違いだったことに気づく。恐らく、カラダがビックリして、気温を察知する機能が瞬間的にバグってしまったのだろう。マイナス20度に保たれた館内を歩いているうちに、露出している部分と手先、足先がどんどん冷たくなっていった。そして、カラダのなかから寒さが込み上げてくるようになった。