トランジション藤野の活動を象徴するもののひとつに、地域通貨の活用が挙げられる。説明は建築家の池辺潤一さん。この会場には、ツアー参加者だけでなく、新しく「萬」に登録するために説明を聞きに来た地元の方数人が合流した。月に1回、新規登録者を受け付ける説明会も兼ねているのだ。
現在、萬の会員は600人ほど。メーリングリストで萬の取引の情報を流したり、実際に使える店舗へ行くこと、または友達同士の取引で運用されている。地域通貨のなかには紙幣を発行するものもあるが、ここでは通帳型で運営している。自分の通帳を持ち、使うときにはその通帳に取引内容とプラスなのかマイナスなのかその額を書き、取引相手のサインをもらう仕組み。
値段のつけ方は任意で、例えば他の会員に「犬の散歩を500萬でお願いする」というような使い方もできるし、「円」と並行して一部萬での支払いOKとしているような飲食店やサービスも藤野にはあるらしい。
この地域通貨のおもしろいところは、「マイナスも気にしない」ということ。会場からも、「最初の元手はどうするのですか?」「マイナスいくらになったら利用停止ですか?」と不安げに質問が発せられたが、池辺さんはわははと笑いながら、10年近く使ううちに実感したという、萬の性質について話してくれた。
「昔はマイナス10万萬までと決めていたんですが、今は特に決まりはありません。このお金の特徴はマイナスでも気にしなくていいってこと。マイナスが多い人は、誰かの得意なことを引き出すことが上手ってことですよ。それってすてきですよね。逆にプラスが多い人は生活にゆとりがあって誰かの役に立ちたい人。もしかしたらちょっと人に頼るのが苦手なのかもしれませんね。いずれにしても、みんなの通帳を全部集めたらプラスマイナスゼロになる。地域の循環の輪のなかでバランスがとれているんです。」
藤野では、萬のほかにも、シュタイナー学園内で使われるものや、この後訪ねた廃材エコヴィレッジゆるゆるが発行するものなど複数の地域通貨が誕生しているそうだ。
説明を聞いた感想は「地域通貨って楽しそう」ということ。実際、池辺さんの話では、初めて萬を作って数人で使用実験を開始したときには、「楽しくてなんでもかんでも萬でやりとりしていた」と言う。
萬を媒介にすることで人に頼りやすくなったり、自分の持っているゆとりや余裕の部分をおすそ分けしやすくなる。きっと昔は、その媒介さえ必要なかったのかもしれないけれど、今は「円」と「お互いさま」の間に地域通貨があるのかもしれない。
未知の細道の旅に出かけよう!
等身大の「持続可能性」に出会う 山あいのトランジション・タウン体験ツアー
※本プランは当サイトが運営するプランではありません。実際のお出かけの際には各訪問先にお問い合わせの上お出かけください。