埼玉県秩父郡
2016年4月、秩父市に日本初のシュガーハウス「メープルベース」がオープンした。シュガーハウスとは、カエデの樹液を煮詰めてメープルシロップを作る小屋のこと。メープルベースでは、秩父の山に自生するカエデの樹液でメープルシロップを作っている。この活動、実は秩父の森を守り、育てるために大きな役割を担っているのだ。これは、秩父のカエデに懸けたひとりの女性とその仲間たちのストーリー。
最寄りのICから【E17】関越自動車道「花園」から国道140号を秩父方面へ約34キロ
最寄りのICから【E17】関越自動車道「花園」から国道140号を秩父方面へ約34キロ
2月某日、東京でちらちらと雪が降った日、埼玉県秩父市の山麓は一面の銀世界だった。西武秩父駅から車でおよそ15分。秩父ミューズパーク内に駐車し、ひとけのない銀杏の並木道を少し歩くと、大きなログハウスが見えてくる。雪をかぶって白い屋根のログハウスを見て、僕は思わず声を上げた。
「なんか、冬のカナダっぽいですね!」
カナダには、冬どころか一度も行ったことがない。ただ、それまでカナダの話を聞いていたので、こういう景色なのかなと思ったのだ。僕の言葉に苦笑しながら「そうかもしれませんね」と答えてくれたのが井原愛子さん。秩父市からこのログハウスを借り受け、日本初のシュガーハウス「MAPLE BASE(メープルベース)」を運営する女性起業家。
シュガーハウスとは、メープルシロップの本場であるカナダの言葉で、メープルシロップを作る小屋を指す。なかにはカフェやショップを併設している施設もあり、メープルシロップを求める町の人や観光客が集う。
2014年4月、カナダでその存在を知った井原さんは、「秩父にも作りたい!」と東奔西走。賛同する仲間たちとともに手を尽くし、2016年4月、メープルベースをオープンした。そう聞くと、よっぽどのメープルシロップ好きなのかと思ってしまうけど、井原さんの答えは「そうでもありません(笑)。パンケーキを食べる時とかに使う程度ですね」。
メープルマニアじゃない人が、なぜ日本初のシュガーハウスを作ったのか。これは、秩父のカエデとサステイナブルな森づくりに懸ける井原さんとその仲間たちの物語だ。
川内イオ