図らずも人気レコード店の店主となった岡崎さんだが、「離婚した後は、携帯電話も変えて仲の良い人たちとも自分から付き合いを断ってしまい、当時の職場の付き合いも断っていたんですよ。だからお店をやる前は、自分は接客なんかできっこない、と思っていた」という。
岡崎さんはこうも続けた。「でもお店をやって人生が180度変わりました。やってみたら、人との繋がりが、どんどんできちゃって……! ありがたいことにね」
レコード店を続ける上でモットーはありますか? と尋ねるとそれには答えず、「仕事は楽しいです、遊びがそのまま仕事になっちゃったみたいなもんだから」と岡崎さん。「紆余曲折あって、ここに戻ってお店をやって良かった。これが自分の使命で、天職だと思う」と続けた。
ふだんの岡崎さんの仕事はこうだ。金曜日から月曜日までの4日間、店を開け、火曜から木曜までの三日間は、店を閉めてレコードの仕入れにいく。仕入れのルートはさまざまで、レコードがある場所なら、遠くの地方までこまめに足を運ぶ。主に片付け業者や取り壊し業者から買い付けるほか、リサイクルショップなどで業者として買い付けることもある。元手となった5000枚のレコードはあっという間に売れ、商品はすべて入れ替わっており、遠出してまで仕入れするのは大事な仕事のうちなのだ。
レコードブームもあって、店の品揃えも昭和歌謡、80年代シティポップ、ジャズ、ヒップホップやR&Bなどのブラックミュージック、それにアニメと、オール・ジャンルだ。どんなジャンルもそれぞれとても人気があるそうだが、とりわけ「いまのお客さんは癒し系の音楽を求めているようですよ」と岡崎さんはいう。店名の『MELLOW』も、もともとは「まったりする」というような意味のスラングだ。
ここまで聞いた私は「観光地としてお客さんが多い金土日に店を開けるはわかるけど、なぜ人出の少ない月曜日にオープンするんだろう……?」とちょっと不思議に思った。大量の在庫が必要なのだから、月曜も仕入れや商品管理に充てて、週末に集中的に店を開けた方が効率が良さそうだ、と素人ながら思ったのである。
四時を過ぎたころやってきたひとりのお客さんが、その疑問を解いてくれた。隣町に住む湖口さんである。料理人として勤めるかたわら、レコードが大好きで地元のイベントではDJもこなすという湖口さんは、とても若々しくて50歳には見えない。所有するレコードは、やはり5000枚ほどあるそうだ!
「コロナもあってイベントも下火になり、50歳になったら趣味のレコードを処分しようと思っていたんです。でも隣町に『MELLOW』という良い遊び場ができちゃって! もう楽しくて楽しくて」
一度ここに来てからというもの、ほぼ毎週のように通っている湖口さん。そう、月曜日は湖口さんの勤め先の定休日なのだった!
「湖口さんはもうお客さんというより、仲間ですよ。一緒にレコードを探しに行ったり、飯食いに行ったり、地元のイベントでDJしたり」と話す岡崎さんに、湖口さんも「たぶん僕がいなかったら、岡崎さんは月曜日に店を開けてない!」と応じて、ふたりは大笑いするのであった。