さらに辺りが暗くなる頃、もうひとりの常連さんが訪れた。ヒデさんである。ヒデさんはなんと、隣の福島県いわき市から1時間かけて、休日である月曜日にやってくるのだという。やはりDJをしているヒデさんは、レコードを1万枚も持っているというのだから、驚きだ。みんな本当にレコードが大好きなのだ。今日も「最近買った」というたくさんのレコードを岡崎さんと湖口さんに見せながら、自分は店内のレコードを片っ端から物色している。
最近の大子町には、自然や観光に魅力を感じて移住し、カフェや宿、観光業を営む若者が少しずつ増えているのだという。そのなかのひとりが「一緒にイベントやりませんか」と声をかけてくれたのがきっかけで、岡崎さんたちはカフェやりんご園などで、DJイベントをするようになったのだ。
大子駅にほど近い、町の中心部にあるその名も「daigo cafe」は、古民家を改装したおしゃれなカフェで、名物は大子のしゃも肉や卵、お米をつかった絶品のデミオムライスだ。多くの観光客が立ち寄ることで有名なスポットでもあるが、店長の河西さんさんはじめ、素敵なスタッフが切り盛りするこのカフェは、町の人たちからも愛されている。
「今回のイベントはジャズのDJイベントです」と岡崎さん。観光協会に勤める、ジャズが大好きな加藤さんもやってきた。加藤さんも次のイベントではDJをやるのだという。仕事帰りに立ち寄ったという、メロウの常連客アッコさんも加わって、イベントの打ち合わせは実に楽しそうに続いてる。
「『MELLOW』がオープンしたことで、50歳を過ぎても、新しい人脈、新しいともだちができて、こういうイベントができるようになったんだよね」と湖口さんたちは嬉しそうだ。
みんなの輪から少し離れたところで、岡崎さんはこういった。
「さっきモットーはない、っていったけど、俺のモットー、ひとつありました」
そして、こう続けた。
「この場所にきてもらったレコードが大好きな人たちに、いい気分になって帰ってもらいたいんです。常連客も、初めてきてくれた人にもね」