そもそもなぜ、暖かい海域が好きなミナミバンドウイルカが、能登島に住み着いたのだろう。
「はっきりとしたことはまだ、わかっていないんです。ただ、餌が豊富で、荒波が立たない。隠れる入り江がある。それにつきると思います。次々に出産するのも、子どもにとって育つ環境が整っているからではないか、と海に詳しい人たちとは話しています」
元マリンガールの金山さんは、そう説明する。能登島のイルカに関しては、詳しい研究成果など公には発表されていない。そのため金山さんは、能登島のイルカの特性が気になり、1年を通してイルカを観察することにしたのだ。
「それまでは、真冬の能登をイルカがどのように過ごしているのかあまり知られていませんでした。冬も海に入り、イルカと泳いでみて『このエリア温かい』という場所があると気づいたんです。それをイルカは学んで、その日によって場所を変えているんだとわかるようになりました」
能登の冬は雪も降る。厳しい気候に感じるが、イルカは寒さに耐えられるのだろうか。
「冬になると、イルカはぷくぷくに太っていくんですよ。能登島の気候に順応させるために太っているのかな、って。そして、春になるとみんな痩せていきます。その中で、太っている子がいると『きっと雌だな』と思うんです。少しすると、お腹が大きくなってイルカの形になり、子どもが生まれます」
毎年のように子どもが生まれているということは、イルカにとって能登島は居心地のいい場所なのだろう。ふと昨今、ニュースや新聞で騒がれている「かみつきイルカ」のことを思い出した。能登島のイルカに関してはどうなのか気になった。
「能登島のイルカは、フレンドリーだと言われています。そうはいえども『野生のイルカ』なので、フレンドリーだとは思っていません。私たちが敵意を持っていない、自分たちの生活を脅かさないと思ってくれるから、イルカも過度に反応せずフレンドリーと感じるんだと思います。過激な接触をするようになると、イルカの特性で遊んでくれていると勘違いして、噛んだり、水中に引っ張っていくかもしれない。私たち人間側が、イルカを尊重する距離間が大事だと思っています」
船は次に、ツインブリッジの橋の下に止まった。ブルーシートを被った家屋があり、後ろには地震で崩れたであろう丘が見える。イルカは、どこにいるんだろう。
「今あっちにいきましたね」
私にはまったく見えないイルカの動きが、石田さんには見えているようだ。他の参加者さんもキョロキョロと探している。
「ほら今は、あそこですよ」
数秒前には目の前にいたイルカが、後方100メートルの場所にいる。イルカのスピードに驚く前に、石田さんのイルカを発見する早さに驚く。
聞くと、石田さんとイルカの付き合いは、かれこれ14年になるというーー。