2024年1月1日、能登半島地震が発生。
当時、石川県が大きく注目されていたが、富山県でも大きな被害を受けた場所が多くあった。そのひとつが氷見だった。
ひみ番屋街では、陸上競技場ほどの広さのある駐車場が液状化現象で道路が浮き上がり、車では敷地内に入ることもできなかった。
「えらいことになったな」池田さんは焦った。
「もともと埋め立て地なのもあって道路はドロドロでした。1月1日から、妻と子供3人でユニバ(ユニバーサルスタジオ・ジャパン)に行く予定だったんです。全部キャンセルして隣の高岡市に避難しました」
被災して2日後の1月3日、「ひみぷりん」の様子を見に行った。幸いひみぷりんの店内は、物が落ちているものの被害が少なくすんだ。
「本当は……」池田さんは飲み終わったアイスコーヒーを見ながら氷をかき混ぜる。
「年始ガンガン(お客様が)来るはずだったので、プリンもたくさん作っていたんです。……1000個ぐらい。なので、それはもう、被災された方に配布しました」
あれから10カ月が経った。
「ピンチは新しいことをするチャンス」をモットーにしている池田さんは、新たな商品を開発していた。その名も「カモメ卵ふぃなん」。富山県産の米粉を使用したグルテンフリーのフィナンシェで、小麦アレルギーの人でも食べられる。
港町や船乗りにとってカモメは、「幸運をもたらし、早く家に帰れる」シンボルとして信じられてきたという。新商品にも「また氷見にきて観光してほしい」との想いが込められている。
「ひみぷりん」の店の前を覗く。人が途切れず訪れている。50代くらいの女性3人組が「えーどれにしようかな」とショーケースを覗いている。男性がひとり、大きな保冷袋に入った数個のプリンを抱え、店を出ていく。老夫婦が、なめらかプリンを選び、「車で食べるからスプーンを付けてくれる?」といっている。
池田さんはこう語る。
「例年に比べると、まだ人は少ないです。被害のひどかった能登方面のバスが来ないので、早く戻ってほしいですね。そして、たくさんの方に来てほしいです」
夏でも冬でも季節も関係なく食べたくなるのがプリンの醍醐味だ。人が少なくなるのを待ち、私もプリンを購入した。能登の実家で母と一緒に食べよう。
実家に着き、氷プリンをいただく。
「うわああ! なにこれ、おいしい!」
母は左手を頬にあて、幸せそうに目をまん丸にしている。私も袋に入った氷砂糖を、青いジュレの上からかける。氷砂糖が丘のように積みあがり、ジュレの海から顔を出す。プリンの中に、小さな神の山をみつけた。
「立山に 降り置ける雪を 常夏に 見れども飽かず 神からならし」
(大伴家持『万葉集 立山の賦』747年 所収)