佐竹さんはイタリアに来た当初から、まだ日本に紹介されていない面白い料理や技術を見つけたいと常にアンテナを立てていた。
そこに引っかかったのが、ハム作りだ。
最初にハム作りに触れたのは、パルマ近郊で働いていたとき。出入りの肉屋と一緒に、SALSICCIA(ソーセージ)を手作りした。豚肉のミンチにニンニクと塩とコショウを加えて練ったものを、肉屋で買った腸に詰めるだけ。簡単なのに、それまで食べたどのSALSICCIAよりシンプルでおいしく感じた。
2度目の機会は「DAL PESCATORE」で。シェフのナディアから「親戚の農家が豚をつぶしてサラミを作るから見に来たら」と誘われた。屠殺は見られなかったが、吊るした肉からサラミを作る工程をひと通り見学した。肉を塩漬けして干すだけでこの味に変わるのか、と信じられなかった。
日本に一時帰国したときに料理専門紙などで調べてみたところ、日本でイタリアの製法を使ってハムを作ることは、まだ誰もやっていない。この技術を日本に持ち帰りたい。
詳しくハム作りを知るチャンスは、ヴェネト州ヴェローナ近郊のピッツェリアで働いていた時に訪れた。スタッフの親戚の農家で、冬のハム作りを5、6回見せてもらったのだ。
2009年に帰国した後は、「ハムが作れる」ということで採用された東京・秋葉原のレストランでシェフ兼店長をやりながら、独学で自分だけの武器を磨き続けた。
調味料・香料を加えた肉を腸詰めにし、種類によって異なる紐の結び方で固定した後、乾燥・熟成させる。
イタリアの肉加工メーカーやスーパーが出しているハム作りのYouTubeの画像を見ては、「こういう仕組みなのかな」「こういう処理をすれば結果はこうなるかな」と仮説を立てて試してみる。失敗したらどこがどうダメだったのかの原因を探り続けた。
ハムの種類によって異なる紐での縛り方・結び方に関しても、画像を繰り返し見て自分で何度も試しながら「この結びは必要ない」「この結びは強くした方がいい」と研究を重ねた。