依田夫妻が盆フェスの開催について周囲に話すと、もともと読書の森と縁のあった音楽ファシリテーターのオギタカさんやアーティストのささきりょうたさんら、何人かの仲間が集まった。
さらに、「弟が御牧原地域で作られた盆踊りの音源を持っている」という地元在住の久保井という男性も現れた。
盆フェスの構想開始から半年が過ぎた2015年3月。
読書の森に集まった久保井さん、オギタカさん、そして依田夫妻は、久保井さんが持参したCDをプレーヤーにセットして、耳を澄ませた。
はあ~
浅間蓼科 もろ手にだいて
ここは良いとこ 御牧原
これさ よいとこよいとこ 御牧原
(1番)
はあ~
乙女心か 御牧のいちご
赤い顔して 下を向く
これさ よいとこよいとこ 御牧ヶ原
(3番)
はあ~
御牧音頭の とりもつ縁で
晴れてうれしや 新世帯
これさ よいとこよいとこ 御牧ヶ原
(6番)
変拍子の独特な曲に載せられた歌詞からは、御牧原への愛着とともに盆踊りが大切な出会いの場になっていたことがうかがえた。
「一緒に地元の財産を復活させよう」
メンバーたちは心を掴まれ、オギタカさんが譜面を起こした。ささきりょうたさんが歌い、スタジオを持っている仲間がCD制作を買って出た。ジャケットは田島征三さんだ。元の踊りはわからなかったので、知り合いだった幼稚園の先生にお願いして、新たに振り付けもつくった。
譜面起こしをする作業を「遺跡発掘のようだった」と語るオギタカさんは、御牧原音頭の存在を知った当時のことを次のように振り返る。
「2番までのご当地ソング的な歌詞と、そのあとの遊び心ある色恋の歌詞に、75年前の熱気が伝わってくるよね。一時は忘れられてしまった曲だけれど、当時の熱が曲として残っていることが作曲家としてなんとも嬉しかったんです」
雄さんは、盆踊りの本質を「帰る」ということではないかと言う。
「盆踊りって実家から離れた人も、ご先祖様も帰省するでしょ。祖国を離れて日本に住んでいるけどお盆に帰る場所がないっていう外国人の子が、読書の森がそういう場所のようだと言ってくれたことがあったんです」
嬉しそうに語る雄さんは、「日本人だけじゃなく、誰もがお盆に帰省する場所を欲している」と考え、読書の森が第二のふるさとのようになったらよいという願いを「里から始まるインターナショナル盆踊りフェスタ」の名に込めた。
盆踊りを自分たちでやろうと決めてから1年。2015年8月15日、御牧原の盆踊りはついに復活の狼煙をあげた。