未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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忘れられた盆踊りが愉快に復活! インターナショナルな「盆フェス」はみんなの“帰る”場所に

文= 座光寺るい
写真= 座光寺るい
未知の細道 No.265 |25 September 2024
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#2人も蝶も舞い踊る森の一夜

信州御牧の どうらくオルガン
十日町から やってきた
世界に一つの 愉快な楽器
皆で音だしゃ 踊りだす

どんどん どうらく どどんがどん
ツイスト アン シャウトで ゴゴーが ゴー


Doraku Organ Mimaki in Shinsyu
Came from the Tokamachi city
The only instrument of music in the world
Let’s make music and let’s begin to dance

Dong Dong Doraku Dong Dong Ga Dong
Twist and Shout and Go Go ga Go

迎え盆の8月13日。夕方、風に乗って聞こえて来たのは、なんだか愉快な盆踊りソング。

この日、喫茶店兼ゲストハウス「読書の森」の入口には、手作り感のあるのぼりがふたつ立っていた。ひとつは日本語、もうひとつは英語で、「インターナショナル盆踊りフェスタ / The International Bon Dance festa」と書かれている。

「里から始まるインターナショナル盆踊りフェスタ」、略して「盆フェス」は、2015年から始まり、コロナ禍で1回中止となったが、今年で9回目を迎えた。冒頭の曲は、盆フェス開始当時に有志が作詞作曲した「どうらく音頭」の一節だ。

ふたつののぼりにいざなわれるように入口の坂道を登ると、蔦に覆われた雰囲気のある喫茶店の建物が現れる。
そこからさらに少し登り、手作りの行灯に導かれながら野原を通り抜けると、広々とした丘に手づくりの櫓が設置され、イラストが描かれた提灯が風に踊っていた。

櫓や提灯を見守るように、アート作品「どうらくオルガン」が鎮座する丘には、地元の郷土食であるおやきやジビエソーセージのホットドック、みんな大好き焼きそばにフルーツたっぷりかき氷の出店がずらりと並ぶ。

開始時間が近づくと、盆踊りの演奏が始まった。
バンドを組むのは、盆フェスを立ち上げたときから関わる地元のアーティスト・ささきりょうたさんと音楽ファシリテーターのオギタカさん、毎年東京から参加しているというオギタカさんの音楽仲間、千成郁子さん。

アート作品「どうらくオルガン」の前に設置されたステージブース

どんどん どうらく どどんがどん
ツイスト アン シャウトで ゴゴーが ゴー

ささきりょうたさんが一度聞いたら忘れないメロディーで「どうらく音頭」を歌う。オギタカさんが楽器を奏でながら「御牧原音頭」を歌い、千成さんが湧き水のように透き通った声で「あいうえ音頭」を風にのせる。

高校生の頃から読書の森の常連だというタクちゃんのウッドベースが、音に厚みを添える。和太鼓を叩くのはデンマークから滞在しているサリー。

すっかり盆バンドに馴染んでいたデンマークのサリー

この場所で生み出される音楽が、少しずつ変化する御牧原の空やどうらくオルガンのおかしな空気と重なり合いながら、優しく人々を包み込んでいく。

どんどん どうらく どどんがどん
ツイスト アン シャウトで ゴゴーが ゴー

踊ろう。踊っちゃえ。無防備に魂がむき出しになるような、むき出しにしていいような、そんな気持ちになった。

みなよい表情で手をとりあって踊る

この日、日が暮れて月のランプが夜空を明るく照らすまで、およそ100名ほどの老若男女が櫓を囲んで陽気に踊った。地元の人も、遠くから来た人もいたし、毎年来る人も、今年初めての人もいた。コロナ禍で減った参加者も少しずつ回復し、去年に比べるとおよそ1割増となった。

浴衣を着た子どもたちと、子どものような大人たちが手を取り合って踊り、笑い、食べて飲んで、また踊り、気づいたら櫓の周りを国蝶のオオムラサキが舞っていた。

御牧の丘で どうらくオルガン
ガランピーガランピー 歌いだしゃ
ホタルも蝶も 舞い踊る
真夏夕べの 生き物祭り


Doraku Organ on Mimaki plateau
If it begins to sing ‘garanpie-garanpie’
Fireflies butterflies and all creatures
Singing, Dansing, at midsummer’s night

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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