気合いが、気負いになったのかもしれない。技術面では、納得のいくパフォーマンスを出せた。しかし、接客では予選、本選とミスが続いた。
「全日本回転寿司MVP選手権」の特徴のひとつは、ひっかけ問題が出るところ。予選では、「大学生の娘を連れている父親」に接客しているというシチュエーションで、お店に娘の同級生がいることがわかり、「あっちにレモンサワー出してあげてください、奢りますんで」と言われた。
わかりました、とレモンサワーを出した永田さんは、予選が終わった後、「大学生の娘」が未成年という設定だったことを思い出す。ということは、「娘の同級生」も未成年で、アルコールを出してはいけないというひっかけだった。
「やっちゃった……」という後悔が響いたのか、その後の本戦では別のミスを犯す。客役から「イワシのしょうが抜き」を注文されたのに、「サバのしょうが抜き」と勘違いしてしまったのだ。ただ、この時は機転を利かして切り抜けた。
「サバのしょうが抜きでしたか?」(永田)
「イワシ」(客役)
「イワシですね。申し訳ございません。たまに、ちょっと間違うんですよ。三歩くらい歩くと忘れちゃう」(永田)
取材時、「よく、咄嗟に冗談で切り返せましたね」というと、永田さんはほほ笑んだ。
「あの時は自然と言葉が出ていました。普段からそういうことをちょこちょこ言ってるんで、いつも通りの接客ができたんだと思います」
この話を聞いて、僕は思った。永田さんは「人の技を見て盗む」という。人見知りで下を向いて接客していた若者はきっと、握りの技術だけでじゃなくお客さんへの対応も盗んできたのだ。
MVP選手権では、総合順位の前に技術部門、演出部門などの順位が発表される。栄えある技術部門の1位は、永田さんだった。それなのに、名前が呼ばれた際、実はガックリきていたという。前年に出場した時も技術部門1位を取りながら、6位に終わった。技術がトップなら、問われるのは接客。今回は2度のミスを自覚していたから、素直に喜べなかったのだ。
総合部門で3位と2位の人の名前が読み上げられた時には、「今年もダメだったか……」と意気消沈。だから最後、参加した17人の職人のなかから優勝者として自分の名前が呼ばれた時は、耳を疑った。
「まさか、と思いました」