山川さんは、なかほら牧場で「めちゃくちゃ働いた」と振り返る。牛の世話だけでなく、加工品の製造、販売をひと通り学ぶために、早朝から積極的に動き回った。
しかも、手取りは10万円にも満たず、住まいは掘っ立て小屋。風呂が外にあって、マイナス10度を下回る冬には、風呂に入っている間に家の扉が凍り付いた。この猛烈に忙しい貧乏暮らしが「すごく楽しかったです」。
「牧場のなかでいくらでも山菜やキノコが採れるんですよね。食べきれないから山菜は漬物に、きのこは塩漬けにするんですよ。近所のおばちゃんにも可愛がってもらって、アワビやウニ、サケをよくもらいました。これってぜんぶ 0円だけど、めちゃくちゃうまいんです。田舎で自然との距離感が近ければ近いほど、人との距離と距離が近ければ近いほど、お金がなくても豊かな暮らしができるんだなと思いました」
岩手での田舎暮らしを満喫してた山川さんが、京都の丹後に移ることになったのは2006年。「使われていない土地を牧場として活用することで土地の価値を高めて、コミュニティを作ろう」と放牧酪農への参入を決めた京都の上場企業、アミタに転職した。