山川さんは、1982年、埼玉県川越市で生まれた。幼い頃から川で釣りをしたり、自然のなかで遊ぶのが好きだった山川さんは、いつしか北海道に「漠然とした憧れ」を抱くようになった。
北海道に1週間滞在できるチャンスが巡ってきたのは、中学生の頃。「川越市少年の船」という市営のプログラムがあり、市内の中学校から2名ずつ選ばれて、現地でさまざまな交流、体験をする。「生徒会に入れば参加できる」と知っていた山川少年は、生徒会に入って狙い通り北海道に向かった。現地で少年の心を捉えたのは、伊達市の牧場で見た景色だった。
「その牧場は牛が丘のうえで放牧されていて、山と海が見えるすごく眺めがいい場所なんです。放牧というより、こういう環境で仕事をしたいなと思って酪農に興味を持ちました」
高校生になっても北海道で見た風景が忘れられず、東京農業大学の畜産学科に進学。入学して最初に受けた「家畜1」という授業で聞いた話を、今もおぼえているという。
「牛は人間が食べれない草を食べてミルクにしてくれるという話で、シンプルだけど面白い!と思いました。ヨーロッパで農業は公共的な意味合いがあるから、農家はみんな一般の人に解放してるんだよという話もしていましたね。農業は補助金もあって成り立つから、食料だけじゃなく、風景や環境もお客様に還元するのが農家の役目だと言っていたのが、記憶に残っています」
大学に入ってすぐ、中学生の時に北海道で見た放牧は、一般的なスタイルではないと知った。日本の一般的な牧場では、乳牛は牛舎で飼われていて、日本で飼養されている全乳牛のうち、放牧されているのはおよそ20%にあたる約26万頭に過ぎない(農林水産省の2021年度のデータによる)。その現実にショックを受けつつ、放牧で酪農をしている酪農家の存在に勇気づけられた。