渡辺さんは岩手県で生まれ育った。絵を描くのが好きな子どもで、家には機織りできるおもちゃがあった。ものづくりの原点といえる思い出も幼少期。絵本『大草原の小さな家』を母が読み聞かせてくれたことだった。
「開拓時代のアメリカに住む一家が、自給自足しながら暮らすお話です。ローラという幼い少女が主人公で、いろんなものを手作りする場面がたくさんでてくるんです。ホームスパンで布を織る描写もあって、ものづくりに憧れました。ひとりで読めるようになってからも繰り返し読んでいましたね」
歳を重ねてからも「ずっと美術の授業が好きだった」けれど、絵やものづくりを仕事にするという考えはなかった。
転機が訪れたのは高校3年生の時。進路に迷っていると、元担任の美術教員からこう言われた。
「岩手大学の教育学部に『特設美術科』がある。美術の教員免許もとれるし、そこを受けてみたら?」
美大以外にも美術を学べる大学があるんだ、と目から鱗だった。父親が教員だったこともあり、教育学部と聞いてしっくりきた。試験内容を調べてみると、デッサンと小論文。「美術と国語以外は嫌いだからちょうどいいかも」と、デッサンの特訓を始めた。
受験の結果、合格。大学では染織を専攻した。初めてホームスパンを作ったのは、大学3年生の時だ。
「ホームスパンをデザインして製作する授業があって、マフラーを織ったことを覚えています。羊毛の美しさや、染料を混ぜて色を作る楽しみは、大学で学びました。この時の経験が今に繋がっていますね。進路のアドバイスをくれた先生は恩人です」