未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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岩手から全国にはばたく毛織物 大正から続く伝統の「ホームスパン」

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.255 |25 April 2024
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#7絵本『大草原の小さな家』の主人公に憧れて

渡辺さんは岩手県で生まれ育った。絵を描くのが好きな子どもで、家には機織りできるおもちゃがあった。ものづくりの原点といえる思い出も幼少期。絵本『大草原の小さな家』を母が読み聞かせてくれたことだった。

「開拓時代のアメリカに住む一家が、自給自足しながら暮らすお話です。ローラという幼い少女が主人公で、いろんなものを手作りする場面がたくさんでてくるんです。ホームスパンで布を織る描写もあって、ものづくりに憧れました。ひとりで読めるようになってからも繰り返し読んでいましたね」

歳を重ねてからも「ずっと美術の授業が好きだった」けれど、絵やものづくりを仕事にするという考えはなかった。

転機が訪れたのは高校3年生の時。進路に迷っていると、元担任の美術教員からこう言われた。

「岩手大学の教育学部に『特設美術科』がある。美術の教員免許もとれるし、そこを受けてみたら?」

美大以外にも美術を学べる大学があるんだ、と目から鱗だった。父親が教員だったこともあり、教育学部と聞いてしっくりきた。試験内容を調べてみると、デッサンと小論文。「美術と国語以外は嫌いだからちょうどいいかも」と、デッサンの特訓を始めた。

受験の結果、合格。大学では染織を専攻した。初めてホームスパンを作ったのは、大学3年生の時だ。

「ホームスパンをデザインして製作する授業があって、マフラーを織ったことを覚えています。羊毛の美しさや、染料を混ぜて色を作る楽しみは、大学で学びました。この時の経験が今に繋がっていますね。進路のアドバイスをくれた先生は恩人です」

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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