未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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結城市唯一の小さなブルワリーができるまで 元校長先生が造るクラフトビール

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.246 |25 November 2023
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#2教員嫌いなのに、教員になったワケ

結城麦酒の醸造所。隣は、息子さんが経営するエスニック料理屋「LOTUS」

JR水戸線「結城駅」から徒歩7分。大手チェーンの飲食店や薬局が立ち並ぶ大通り沿いに、結城麦酒はある。

ログハウス風の醸造所の一部はガラス張りで、店内がよく見える。私が約束の時間に訪れると、醸造所でビールを仕込む塚越さんの姿があった。窓をコンコンとノックしておじぎする。それに気づいた塚越さんが、ニコッと笑って裏口の方向を指さした。

裏口から出てきて挨拶をする塚越さんの第一印象は「背筋がピンと伸びていてエネルギッシュ」。

株式会社結城麦酒の塚越敏典さん

塚越さんは1958年、結城市で生まれた。「幼い頃から運動が好きで、勉強はぜんぜん好きじゃなかった」という。

「飛行機が好きでね。将来はパイロットになりたいと思ってた。でも中学校であまりにも英語ができなさすぎて、『こりゃパイロットにはなれないな』って諦めて(笑)。教師になったのは、親から言われたからなんだよ」

「大学で教員免許をとりなさい」と親に勧められたのは、大学に進学した時。自営業だった親の、子のためを思った助言だった。しかし塚越さんは「教師になんて絶対ならない!」と猛反発した。

「私は教師が好きじゃなかったんですよ。教師なんてえらそうに意見を押し付けてくるだけだって、当時は思っていたんです。でも大学の費用は親に出してもらっていたから、親に従って渋々教職課程をとりました」

大学4年生になり中学校へ教育実習に行ったある日、子どもたちが話しかけてきた。

「僕、実はこの学校の先生がいやなんだ」 「先生ってなんでも自分たちで決めちゃうよね」

自分と同じように教師を嫌う子どもの多さに驚いた。その時、思った。

「この子たちのためにも、自分が教員になった方がいい」

その日の夜、友だちに「教員採用試験の申し込みはいつまで?」と聞くと、「明日まで」と返ってきた。慌てた塚越さんは、「郵送では間に合わない」と教育委員会まで直接書類を提出しに行き、なんとか試験を受けられることになった。

教員採用試験まで、たったの2週間。「必死に勉強したら教員になれちゃったんだよ」と茶目っ気たっぷりに塚越さんは笑う。

あれだけ「教師になりたくない」と言っていた塚越さんだが、教頭や校長を歴任したのち、定年まで勤めあげた。37年間の教員生活をこう振り返る。

「昔は荒れた学校に赴任したこともあってね、生徒たちと『向き合え!』『ぶつかれ!』という風潮だった。でも長い教員生活で学んだのは、向き合うんじゃなく、同じ方向を見ればいいってことだったね」

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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