未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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結城市唯一の小さなブルワリーができるまで 元校長先生が造るクラフトビール

文= 白石果林
写真= 白石果林
未知の細道 No.246 |25 November 2023
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#6結城麦酒醸造を100年続く会社に

「100年続く会社にしたい」と思ったきっかけを尋ねると、塚越さんは頬を緩めた。

「今小学2年生の孫がね、七夕の短冊に『ビール屋さんになりたい』って書くんだよ。孫が大学卒業して就職するとしたら、15年後。その時、俺もう80歳だから体が動かないと思うんだよ。だから孫に渡せるように後継者を探したい気持ちもある。そのあとを孫が継いで、孫が誰かに継いで、脈々と続いていく会社になってほしいなと思ったんだ」

まだアルコールが入る前の麦汁。甘くて香ばしい

現在、塚越さんは1年に1万リットルのビールを造っている。この醸造量だと、売り上げの限界は2000万円ほど。原材料費や銀行への返済を加味すると、従業員を雇う余裕がない。

そこで、思い切った行動に出る。

「売り上げを増やすには、ビールをたくさん造るしかない。だから、醸造量を3倍にすることにしました」

2023年4月、1800万円かけて新しく土地を買い、プレハブを増設した。プレハブは500万円ほどで建てられるだろうと安易に考えていたが、予想は大きく外れた。かかる費用は1200万円。

塚越さんは、銀行から新たに2000万円を借り入れた。

「ご家族には反対されなかったですか?」と思わず聞くと、「誰にも言わないで決めたよ。すべての契約が終わってから報告した。呆れて言葉も出ないんじゃないかな」と豪快に笑った。妻・美和子さんは現在、中学校の非常勤講師を務めながら経理を担い、会社を支えている。

新たな挑戦が始まったばかりの今、冷蔵室に積み上がったビールを見て、ため息が出る日もある。それでも「やめる選択肢はない」と断言する塚越さんの強さは、どこからくるのだろうか。

「もちろんやめる勇気も必要だと思う。でも俺は、『生まれ育った結城で、100年続く会社をつくる』って決めたから。結城には良いものが多いんだけど、あまり知られていないんだよね。だから蚕の餌になるマルベリーを使ったり、地元産の大麦を使ったり、これからもビールを通じて結城の良さを発信して行きたいと思ってますよ」

「それに」と塚越さんは続けた。

「子どもたちに、『失敗を恐れずにチャレンジしよう。やらない後悔はしないこと』と教えてきたから、まず自分がその姿を見せなきゃね。昔自分が嫌いだった、無責任な先生にはなりたくないからさ」

「失敗を恐れずにチャレンジしよう」。多くの大人が、子どもに投げかける言葉ではないだろうか。しかし、その言葉をここまで体現する大人はなかなかいない。

最後に、結城麦酒醸造のモチーフのナマズについて聞くと、こんな願いが込められていた。

「定年退職して目標ややりがいを見失う人は多いと思う。だから俺が、周りの人を揺さぶる『やる気の震源地』みたいな存在になれればいいなって」

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「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
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