たくさんのスタッフたちのなかでも、開店当初からこの店に勤めているのはケイコさんだ。ケイコさんは奈美さんの「ママ友」でもある。3人目のあかちゃんが生まれたばかりで、現在産休中の奈美さんに代わって、ホールの先頭に立っている。そんなケイコさんはニコニコして「ラウルさんに会いにくるために、レストランに来るお客さんもたくさんいるんですよ」という。料理だけではなく、シェフの人柄も、この店の大きな看板だというわけだ。この日、私にジェノベーゼのパスタを作ってくれたナナさんも、奈美さん、ケイコさんのママ友だ。つまり地域の友人たちがスタッフの中核となっている。
もうひとり、カウンターの奥で、トレードマークの麦わら帽子を被り、料理をつくっているシズオさん。御歳68歳のシズオさんは、スタッフ最年長。ラウルさんたちにとっては父親のような、さらに10代のアルバイトスタッフにとっては、祖父のような世代でさえある静雄さんは実は、この地域にある大手企業の元社員。リタイヤ後のある日、趣味のサイクリングをしていてこの店の前を通ったシズオさんの目に、「アルバイト募集」の張り紙が飛び込んできた。
シズオさんはすぐに「65歳でなにもできないけど、料理に挑戦してみたい気持ちだけはあるから働かせもらえないか」とラウルさんに掛け合ったのだという。そうしてシズオさんは今、第二の人生として、この店で料理修行をしているのだ。最初は薪割りなどをやっていたシズオさんだが、今ではピザなどさまざまな料理を担当している。
あれ? このエピソードはなんだか、年齢も状況も目標も違えど、イタリアを旅しながら料理を学んだラウルさんの若かりし頃に、ほんの少し、似てるんじゃない!? と私は思いながら、二人が楽しそうに話す様子を眺めていた。「いつまでここで働けるかな?」というシズオさんに、「この店に定年制はないですからね~」とラウルさんは笑って返していた。
「この店はファミリーだよ」というラウルさん。みんな調理だけでなく、料理の説明など、お客さんへのホスピリティも心得たスタッフなのだと、ラウルさんは胸を張る。
「そうしてお客さんも、スタッフも、みんなでいっしょにこの店をもっと愛してほしいからね」とラウルさんはいった。大人気イタリアンを支える凄腕のスタッフたちは、実はラウルさんの人柄と料理に惹かれて集まってきた地域の人たちであり、ラウルさんが家族のように育ててきた賜物だったというわけだ。
未知の細道の旅に出かけよう!
町と人を変えたコロンビア人シェフの冒険
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