一方でラウルさんは、いつか自分の店を持ち独立したいとも思っていた。できれば奈美さんの出身地である茨城県の県庁所在地である水戸市や、あるいは東京に近いつくば市あたりで、と物件を探していた。しかしある日のこと、奈美さんの実家がある常陸太田市で勧められた物件を、ほんの見学のつもりで見にいった。
それが今の「楽生流」だ。豊かな緑の中にぽつんとある、使われなくなった大きな建物のなかを見て、ラウルさんはすぐに自分の理想のキッチンのイメージが湧いたという。さらに「小さな倉庫には食材をいれよう。敷地内には大きな家もあり、ふたりの息子たちを自然豊かな環境で育てられる! 広い土地は駐車場にもなる」とその場でアイディアが膨らんだ。
人口わずか4万人ほどの地元のことをよくわかっている奈美さんは「こんな静かな里山の地域では、絶対にお客さんは来ない!」と反対したが、それでもラウルさんはその日のうちに、この建物と土地を買うという決断をしたのだった。「この不便なところまで料理を楽しみにやってくるお客さんの姿が想像できた」というラウルさん。それが2019年のことだった。
さて、初めの一年は金曜日と土曜日だけ店をオープンし、残りの5日間は東京の店で働いて資金を貯めた。「一年目は、東京とこの店を往復して365日働いていて、本当に大変だったよね」とラウルさん。
その後、コロナ禍が世界中を襲ったが、前述の通り、田舎に突如できた本格的なイタリアン・レストランはすぐに評判になり、順調に客足を伸ばしていった。2年目からは週4日間、そして4年目の今は週6日間、店を開けている。
「周辺に住むお客さんたちがいつもこの店に食べに来れるように、店を開けていることが大切だよ」とラウルさんはいう。そして「よく来るお客さんたちが、次はなにが食べられるかな? という楽しみを持てるように、毎週1品でもメニューを変えることも大切だね」と重ねていった。実際、この店はとても品数が多い。9人いるスタッフの意見を聞いて、一緒にメニューを考えるのだという。
さあ、この大人気店を支える9人のスタッフたちは一体どんな人たちなんだろう。さぞかし精鋭のスタッフをラウルさんが呼び寄せたに違いない。私はそんなふうに思っていた。
未知の細道の旅に出かけよう!
町と人を変えたコロンビア人シェフの冒険
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