小嶋総本店は2020年、生産する日本酒をすべて、醸造アルコールを添加しない純米づくりに転換した。より地域性、文化性の高い酒造りを目指すだけでなく、地球の裏側から運ばれてくる醸造アルコールを使用せず地元産の原料で造ることで、輸送の際にかかるエネルギーやCO2を削減するためだ。
2023年2月からは、酒造りに用いるすべての電力を、自社の酒粕を活用して発電された再生可能エネルギーに移行した。日本酒を絞ったあとの酒粕を利用して焼酎を蒸留し、その後に残る焼酎粕を提携するバイオガス発電所に発電の原料として提供、その電力を購入するという、循環型のエネルギーサイクルの構築に成功したのだ。
「エネルギーを変えようと思ったのは、ここ3、4年です。東京の新電力で再生可能エネルギーを指定して購入することもできたのですが、もっと自分達の課題解決に深く関わる取り組みがしたくて。その頃、ちょうど近くの町にバイオガス発電所ができて、原料として酒粕を使えることがわかりました」
小嶋総本店では、それまでも廃棄物を出さない努力をしてきた。製造工程で出る酒粕は廃棄せずに販売したり、蒸留して梅酒造りに活用したり、米ぬかは果樹園の肥料にしてもらったりしていたという。今回のバイオガス発電所でのエネルギー循環は、廃棄物を出さないことと、エネルギーを再生可能エネルギーにすることのふたつの課題が一カ所で解決できるので非常に意味があるが、なによりローカルのエネルギーを使えることに価値があると小嶋さんは考える。
酒粕を活用した単一発電所の電源で酒造りを行う取り組みは世界初で、この循環型のエネルギーサイクルを確立したことで、小嶋総本店は製造によるCO2排出量を約3分の1に削減することに成功した。2023年9月には、残る課題であった重油ボイラーによるCO2排出を、同じ東北の食品製造企業よりJ-クレジット(※)を購入することによってオフセットし、CO2排出量実質ゼロ、カーボン・ニュートラル化を達成している。
※温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証する制度
こうした取り組みのアイデアはどこから来るのか?
「海外の展示会は情報の宝庫です。世界中の生産者が集まっていますから。出展者として自社の酒を売るだけでなく、生産者の立場から、サステナビリティに取り組んでいるワイナリーの担当者やブランドマネージャーに『実際やってみてどうか、手ごたえを感じているか』といった生の声を聞いたりしています」
世界で仕入れた情報や視点をローカルに変換して実行する。簡単なことではないはずだが、小嶋さんは次々と企画を練り上げ形にしていっている。小嶋さんを前に推し進める原動力はなんだろう。