未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
232

1年に2カ月だけ現れる幻想の景色 水没林で空中浮遊のカヌー旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ/いいでカヌークラブ
未知の細道 No.232 |25 April 2023
この記事をはじめから読む

#6サービス精神旺盛なキツツキ

湖上で景色に見入る。

太陽がしっかり姿を現した頃には、湖上に滑り出してから1時間以上経っていた。ゆったりとしたスピードでスタート地点に向かう。

キツツキの巣があった水没林に戻ると、僕らの前を一羽の鳥がサッと横切り、樹にとまった。その樹の近くにいた堀江さんが囁く。

「キツツキです」

目を見張った僕は、気持ちの上ではコッソリと近づいた。でも、素人のカヌーからバシャバシャというパドルを漕ぐ音を消すのは難しい。

見えるかなあ……と思った瞬間、パッと飛び立っていった。ああ、と少し残念に感じたけど、堀江さんの「キツツキが樹を突くところ、初めて見ました」という言葉でハッとした。

そもそも普段は空高く飛んでいるキツツキを目の前で見ること自体が、とんでもなくレアな体験なのだ。そしてそれができるのが、水没林カヌー。空中浮遊の旅の最後に姿を見せてくれたサービス精神旺盛なキツツキに、感謝しよう。

耳を澄ますと、鳥たちの鳴き声がそこかしこで響いていた。鳥たちは朝食の時間だろうか。僕はカヌー乗り場からすぐ近くの温泉に向かった。

いいでカヌークラブでは、ツアー中に写真を撮って、終了後に共有してくれる。(撮影:いいでカヌークラブ)
このエントリーをはてなブックマークに追加

未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。