太陽がしっかり姿を現した頃には、湖上に滑り出してから1時間以上経っていた。ゆったりとしたスピードでスタート地点に向かう。
キツツキの巣があった水没林に戻ると、僕らの前を一羽の鳥がサッと横切り、樹にとまった。その樹の近くにいた堀江さんが囁く。
「キツツキです」
目を見張った僕は、気持ちの上ではコッソリと近づいた。でも、素人のカヌーからバシャバシャというパドルを漕ぐ音を消すのは難しい。
見えるかなあ……と思った瞬間、パッと飛び立っていった。ああ、と少し残念に感じたけど、堀江さんの「キツツキが樹を突くところ、初めて見ました」という言葉でハッとした。
そもそも普段は空高く飛んでいるキツツキを目の前で見ること自体が、とんでもなくレアな体験なのだ。そしてそれができるのが、水没林カヌー。空中浮遊の旅の最後に姿を見せてくれたサービス精神旺盛なキツツキに、感謝しよう。
耳を澄ますと、鳥たちの鳴き声がそこかしこで響いていた。鳥たちは朝食の時間だろうか。僕はカヌー乗り場からすぐ近くの温泉に向かった。