未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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1年に2カ月だけ現れる幻想の景色 水没林で空中浮遊のカヌー旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ/いいでカヌークラブ
未知の細道 No.232 |25 April 2023
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#2見過ごされてきた絶景

意外に大きなキツツキの巣穴。

「ここを見てください」という堀江さんの指先を見ると、樹に穴が開いている。

「キツツキの巣です。キツツキは地上から数メートルのところに巣を作るんですよ」

ええ! すぐにカヌーを寄せた。巣のなかは暗くてよく見えない。でも、なんだか広そうだ。湖上でキツツキの巣穴をのぞき込む。まさに水没林でしかできない体験だろう。

堀江さんによると、水没林はほかにも岩手や山形の別の場所にあるそう。でも、これだけの広さのなかをカヌーで水上散歩できるのは白川湖だけ。

この「日本でここにしかない絶景」は、驚いたことにずっと見向きもされなかった。地元の人たちにとっては当たり前の存在だから、という地方でよく聞く話である。

ダムが造られる過程で、人造湖として白川湖が完成したのは1981年。それから毎年、3月から5月にかけて水没林が出現していたのに、地元でこの景色をカヌーで楽しもうという人たちが現れ、いいでカヌークラブが結成されたのはダムの竣工から35年後の2016年だった。それも最初は地元の人たちがプライベートで集う地域クラブのようなものだったという。

その1年後、「これは観光資源になる!」と水没林のポテンシャルに目を付けたのが堀江さんだ。

いいでカヌークラブの発着地点(出発前は暗かったのでツアー後に撮影してもらった 撮影:いいでカヌークラブ)
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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