「ここを見てください」という堀江さんの指先を見ると、樹に穴が開いている。
「キツツキの巣です。キツツキは地上から数メートルのところに巣を作るんですよ」
ええ! すぐにカヌーを寄せた。巣のなかは暗くてよく見えない。でも、なんだか広そうだ。湖上でキツツキの巣穴をのぞき込む。まさに水没林でしかできない体験だろう。
堀江さんによると、水没林はほかにも岩手や山形の別の場所にあるそう。でも、これだけの広さのなかをカヌーで水上散歩できるのは白川湖だけ。
この「日本でここにしかない絶景」は、驚いたことにずっと見向きもされなかった。地元の人たちにとっては当たり前の存在だから、という地方でよく聞く話である。
ダムが造られる過程で、人造湖として白川湖が完成したのは1981年。それから毎年、3月から5月にかけて水没林が出現していたのに、地元でこの景色をカヌーで楽しもうという人たちが現れ、いいでカヌークラブが結成されたのはダムの竣工から35年後の2016年だった。それも最初は地元の人たちがプライベートで集う地域クラブのようなものだったという。
その1年後、「これは観光資源になる!」と水没林のポテンシャルに目を付けたのが堀江さんだ。