白柳の芽と花を見た後、今度は特になにもない場所に移動した。
「カヌーの向きを変えて、後ろを見てください」
言われた通りにすると、対岸にある山の陰から太陽が昇ってきているのがわかった。
堀江さんが「こくわ」という飯豊町で採れた果実の紅茶を淹れてくれた。その日は気温が5度前後。真冬の厚着をしていったけど、それでもやっぱり湖上は冷える。とてもフルーティーな紅茶で体を温めながら日の出を待っていると、周囲がどんどん明るくなっていった。風もなく凪いだ湖面に山々が映り込み、境界線が曖昧になる。
「この風景を見て、日本じゃないみたいと言ってくれる方もいます」
もともと午前、午後だけだったツアーを早朝に始めたのは、2022年。「こんなに素晴らしい朝の景色があるのなら、お客さんに見てほしい」という想いから始めたそう。
太陽が顔を出すと、眩しくて目を向けていられない。強烈な陽の光で、自分の身体がポカポカ温まってくるのがわかる。これほどの肌感覚で太陽のパワーを感じたことがない。
「なんか太陽ってすごいですね!」というなんの工夫もない感想を漏らすと、堀江さんも目を細めながら、「ほんとに!」とほほ笑んだ。
カヌーを体験するなら日中の暖かい時間帯のほうが快適だろう。でも、僕がまた水没林を見に来るなら、必ず早朝ツアーにする。湖上で見る日の出は、それだけの力があった。