未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
232

1年に2カ月だけ現れる幻想の景色 水没林で空中浮遊のカヌー旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ/いいでカヌークラブ
未知の細道 No.232 |25 April 2023
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#5湖上で見る日の出

白柳の芽と花を見た後、今度は特になにもない場所に移動した。

「カヌーの向きを変えて、後ろを見てください」

言われた通りにすると、対岸にある山の陰から太陽が昇ってきているのがわかった。

温かかい紅茶を飲みながら日の出を眺める至福の時間。

堀江さんが「こくわ」という飯豊町で採れた果実の紅茶を淹れてくれた。その日は気温が5度前後。真冬の厚着をしていったけど、それでもやっぱり湖上は冷える。とてもフルーティーな紅茶で体を温めながら日の出を待っていると、周囲がどんどん明るくなっていった。風もなく凪いだ湖面に山々が映り込み、境界線が曖昧になる。

「この風景を見て、日本じゃないみたいと言ってくれる方もいます」

海外にいるような気分になる雄大な風景。

もともと午前、午後だけだったツアーを早朝に始めたのは、2022年。「こんなに素晴らしい朝の景色があるのなら、お客さんに見てほしい」という想いから始めたそう。

太陽が顔を出すと、眩しくて目を向けていられない。強烈な陽の光で、自分の身体がポカポカ温まってくるのがわかる。これほどの肌感覚で太陽のパワーを感じたことがない。

「なんか太陽ってすごいですね!」というなんの工夫もない感想を漏らすと、堀江さんも目を細めながら、「ほんとに!」とほほ笑んだ。

カヌーを体験するなら日中の暖かい時間帯のほうが快適だろう。でも、僕がまた水没林を見に来るなら、必ず早朝ツアーにする。湖上で見る日の出は、それだけの力があった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。