未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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1年に2カ月だけ現れる幻想の景色 水没林で空中浮遊のカヌー旅

文= 川内イオ
写真= 川内イオ/いいでカヌークラブ
未知の細道 No.232 |25 April 2023
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#42週間ごとに変わる景色

僕は物書き人生20年で初めて湖上インタビューをしながら、ふと不思議に思った。湖や沼のなかで朽ち果てた木を見ることはある。でも、水没林は真っ直ぐに伸びている。冬だから葉は落ちているけど、枯れているわけじゃないというのは幹や枝の張りからわかる。ちゃんと生きている樹が水のなかに沈んでいる。どういうこと?

「ここに生えている樹は、白柳といいます。この木は寒さと水、雪に非常に強いんです。冬の間、3カ月は雪に埋もれていて、その後の2カ月、水に浸るという厳しい環境のなかでも成長を続けることができるんです。恐らく、ほかの樹は耐えられずに、柳だけが残りました」

この白柳のタフさには、驚愕する。「先に進みましょう」という堀江さんのカヌーについて湖の中央に出ていくと、水没している白柳が青々と芽吹いていた。

空に飛行機雲が見えて、思わずシャッターを切る。

「ここらへんは山影になる時間が少なく、日当たりもいいので、先に芽吹き始めます。あと2週間もすれば、山の雪はきれいに解けてなくなって、水没林全体が黄緑色の芽に覆われますよ。ゴールデンウイーク頃になると、その芽が立派な葉っぱになります。そうなると葉っぱのトンネルを進むような雰囲気です」

水没林カヌーのツアーが始まるのは、3月末。それからだいたい2週間ごとに景色が変わっていくという。堀江さんのお勧めは、4月上旬から半ばにかけての芽吹きの時期だ。

「山に残る雪の白さと湖面のエメラルドグリーン、そして青空という3色のコントラストが楽しめるのはその時期だけです」

白柳のなかにはすでに、フワフワとした花を咲かせているものもあった。普段ならはるか頭上にあるはずの花を間近に見ながら、堀江さんの「この光景を自分たちだけのものにするのはもったいない!」という気づきに頷いた。

触れると柔らかな白柳の花。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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