僕は物書き人生20年で初めて湖上インタビューをしながら、ふと不思議に思った。湖や沼のなかで朽ち果てた木を見ることはある。でも、水没林は真っ直ぐに伸びている。冬だから葉は落ちているけど、枯れているわけじゃないというのは幹や枝の張りからわかる。ちゃんと生きている樹が水のなかに沈んでいる。どういうこと?
「ここに生えている樹は、白柳といいます。この木は寒さと水、雪に非常に強いんです。冬の間、3カ月は雪に埋もれていて、その後の2カ月、水に浸るという厳しい環境のなかでも成長を続けることができるんです。恐らく、ほかの樹は耐えられずに、柳だけが残りました」
この白柳のタフさには、驚愕する。「先に進みましょう」という堀江さんのカヌーについて湖の中央に出ていくと、水没している白柳が青々と芽吹いていた。
「ここらへんは山影になる時間が少なく、日当たりもいいので、先に芽吹き始めます。あと2週間もすれば、山の雪はきれいに解けてなくなって、水没林全体が黄緑色の芽に覆われますよ。ゴールデンウイーク頃になると、その芽が立派な葉っぱになります。そうなると葉っぱのトンネルを進むような雰囲気です」
水没林カヌーのツアーが始まるのは、3月末。それからだいたい2週間ごとに景色が変わっていくという。堀江さんのお勧めは、4月上旬から半ばにかけての芽吹きの時期だ。
「山に残る雪の白さと湖面のエメラルドグリーン、そして青空という3色のコントラストが楽しめるのはその時期だけです」
白柳のなかにはすでに、フワフワとした花を咲かせているものもあった。普段ならはるか頭上にあるはずの花を間近に見ながら、堀江さんの「この光景を自分たちだけのものにするのはもったいない!」という気づきに頷いた。