迎えた取材当日。JR田町駅から徒歩10分弱で、芝商店会に着いた。ヒナエちゃんとは12時半に、商店会の入り口にあるたい焼き屋さん「芝の寿堂」前で待ち合わせた。
明治42年(1909年)創業の老舗で、今もコテを使って一匹一匹を手で焼く昔ながらの手法を守っている芝の寿堂。その店主、金子全宏(まさひろ)さんは芝商店会長であり、「芝辛・激辛ストリート」を立ち上げた人でもある。ヒナエちゃんと合流した僕は、早速、世にも珍しい「激辛たい焼き」を注文。焼き上がりを待っている間、金子会長に話を聞いた。
「12年前、私が商店会長になったばかりの時に、役員会でなにか変わったことをやろうという話になったんですよ。まちおこしで」
いきなりのアポなしインタビューにもかかわらずにこやかに語り始めた会長の手は、せわしなくたい焼きを焼き続けている。熟練職人の動きだ。
「その当時、激辛が流行ったじゃん。スパゲッティとかラーメンとか。商店会の『芝の鳥一代』っていうお店もブート・ジョロキアを扱っていてね。それで、うちらも激辛にしようという話になったんです。その時すでに京都に激辛商店街があったから、激辛ストリートにしたんだ」
こうして話を聞いている間にも、たい焼きがどんどん売れていく。なかには、ひとりで6個頼む人も。「すごい人気ですね!」とヒナエちゃんも驚いていた。淡々と注文さばく会長。
「激辛いいね、なんて言ってたら、会長はどうするんだって言われてさ。いや、たい焼きは甘いもんだと決まってるじゃんね。そしたら、『はらぺこDINING』っていう定食屋をやってる若いのが、ブート・ジョロキアを使ったキーマカレーを仕込んで持ってくるから、それをあんこの代わりに挟めばいいって言うんだよ。それから、激辛たい焼きを出してるんだ」
並ぶお客さんにも動じない会長、わざわざ店の奥からキーマカレーを持ってきてくれた。
「これを少しずつ使うんです。あんこと同じ型を使うとカレーの香りが移るから、専用の型を用意してね。注文が入ってから焼くんだよ」