ヒナエちゃんの真の強さを知ったのは、この後だ。小皿に分けて料理をシェアしたら、麻婆豆腐のほうが明らかに辛い。辛味のサンバ隊が踊り狂いながら、無数の花火を打ち込んできたようだ。こちらもただ辛いだけじゃなく、辛うまいんだけど、一気に汗が噴き出してきて、定食についてきた白飯をかきこんだ。それでも辛さが収まらず、水をがぶ飲みする。
僕はまず、自分の台湾ラーメンを食べきることにした。こちらもしっかり辛いけど、おいしく食べられる。一方のヒナエちゃんは白飯にも水にもほとんど手をつけず、余裕の表情で麻婆豆腐をスイスイ食べ続けている。
僕は2杯目の水を注ぎながら、「水、飲まなくて大丈夫なの?」と聞いたら、「辛いものを食べている時に水を飲むと、余計に辛くなるんですよね」と教えてくれた。それは僕も聞いたことがあったけど、口のなかの火消しのためにどうしても目の前の水を手に取ってしまう。中華を食べながらラッシーを飲みたい! と思ったのは初めてのことだった。
ヒナエちゃんは無理した様子もなく激辛麻婆豆腐を完食すると、「おいしかったですね! ごちそうさまでした!」と涼し気に去っていった。わざわざ仕事の合間に芝商店会まで来て、僕の激辛チャレンジに同行してくれたのだ。なぜ、そんなチャレンジをしているのかって? それはここが「芝辛(しばから)・激辛ストリート」だから。