未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
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岩手・一関。 いにしえの戦場(サウナ)から見えた景色。

文= Numa
写真= Numa
未知の細道 No.215|10 August 2022
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#4逆境を乗り越えて

古戦場のサウナの温度が他よりも高いというのは、なんとなく知っていた。けれども浅野さんにとってドライサウナは灼熱地獄、水風呂は拷問、外気浴って何?という状態。そこでインターネットでサウナについて調べ上げ、サウナをテーマにしたドラマ「サ道」を一晩でぜんぶ観て、翌日には意を決してサウナ開拓をはじめた。外気浴ができるスペースを作るべく、かつて露天風呂があった中庭の草むしりをはじめた。長年に渡って放置されていたその場所は、素行の悪い常連客が入浴中に隠れて喫煙する溜まり場になっていた。

次に浴室窓に貼ってあった目隠しのフィルムを剥がす。すると浅野さんが気づかない間に、面識のないお客さんが作業を手伝ってくれたり、見ず知らずの人を通じてDIYに関する様々なアドバイスを送ってくれた。外でタバコを吸う常連客の抵抗もあったが、何とかやめるように説得し、桜の木が植えられ苔むす石が並んでいたかつての中庭は、外気浴のためのスペースに生まれ変わった。

広々とした男湯の外気浴スペースでは10人近くが一度に休息できる。ここまでスペースを確保するサウナは全国的に見ても少ないそう。

次に着手したのはサウナストーブの改造だった。サウナーの集まる施設の多くは、サウナの本場フィンランドのに伝わる入浴法である「ロウリュ」とドイツで盛んな「アウフグース」を導入している。「ロウリュ」とは熱々に熱せられたサウナストーンにアロマウォーターを注いで水蒸気を発生させ、急激に体感温度を上昇させて発汗効果を高める方法。「アウフグース」とはロウリュで発生した蒸気をバスタオルやうちわで扇ぎ、熱風を送ること。しかし古戦場のサウナストーブは水をかけると壊れてしまう可能性が高かった。

かといって最新のサウナストーブを導入する資金は無い。相談を持ちかけた販売元は「おすすめはしない」と浅野さんに釘を差した上で「ストーブの上にレンガなどを積み空間を作ってその上にサウナストーンを並べる鉄板を置けば、うまくいくかもしれない」と裏技を教えた。

浅野さんはそのアイディアをもとに早速ラフな図面を書き、顔見知りの金属加工業者と試行錯誤を重ねてロウリュ可能なストーブに改造した。するとたちまちSNSで古戦場のサウナが評判となり、「サ活」(※サウナ活動の略)と名付けられた温冷交代浴を繰り返して心身を「ととのえる」サウナーたちが県内外からやってくるようになった。

改装を経た現在のサウナ。サウナストーブの周囲に石を積み上げて覆っている。
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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
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