古戦場のサウナの温度が他よりも高いというのは、なんとなく知っていた。けれども浅野さんにとってドライサウナは灼熱地獄、水風呂は拷問、外気浴って何?という状態。そこでインターネットでサウナについて調べ上げ、サウナをテーマにしたドラマ「サ道」を一晩でぜんぶ観て、翌日には意を決してサウナ開拓をはじめた。外気浴ができるスペースを作るべく、かつて露天風呂があった中庭の草むしりをはじめた。長年に渡って放置されていたその場所は、素行の悪い常連客が入浴中に隠れて喫煙する溜まり場になっていた。
次に浴室窓に貼ってあった目隠しのフィルムを剥がす。すると浅野さんが気づかない間に、面識のないお客さんが作業を手伝ってくれたり、見ず知らずの人を通じてDIYに関する様々なアドバイスを送ってくれた。外でタバコを吸う常連客の抵抗もあったが、何とかやめるように説得し、桜の木が植えられ苔むす石が並んでいたかつての中庭は、外気浴のためのスペースに生まれ変わった。
次に着手したのはサウナストーブの改造だった。サウナーの集まる施設の多くは、サウナの本場フィンランドのに伝わる入浴法である「ロウリュ」とドイツで盛んな「アウフグース」を導入している。「ロウリュ」とは熱々に熱せられたサウナストーンにアロマウォーターを注いで水蒸気を発生させ、急激に体感温度を上昇させて発汗効果を高める方法。「アウフグース」とはロウリュで発生した蒸気をバスタオルやうちわで扇ぎ、熱風を送ること。しかし古戦場のサウナストーブは水をかけると壊れてしまう可能性が高かった。
かといって最新のサウナストーブを導入する資金は無い。相談を持ちかけた販売元は「おすすめはしない」と浅野さんに釘を差した上で「ストーブの上にレンガなどを積み空間を作ってその上にサウナストーンを並べる鉄板を置けば、うまくいくかもしれない」と裏技を教えた。
浅野さんはそのアイディアをもとに早速ラフな図面を書き、顔見知りの金属加工業者と試行錯誤を重ねてロウリュ可能なストーブに改造した。するとたちまちSNSで古戦場のサウナが評判となり、「サ活」(※サウナ活動の略)と名付けられた温冷交代浴を繰り返して心身を「ととのえる」サウナーたちが県内外からやってくるようになった。