その後は地域経済の構造変化、核家族化や娯楽の多様化などによって古戦場は次第に事業を縮小させ、健康センターを併設した飲食店だけが残った。
実は浅野さんは、ゆくゆくは現在の建物を取り壊そうと考えていた。施設は古くなり、時代のニースから遅れを取りつつあった。そもそも宴会場なのか、ファミリーレストランなのか、健康センターなのか。もっと何かひとつに特化したほうがいいに違いない。
「『新しくないと人は喜んでくれない。ワクワクしてくれない。』と考えていました。有名な設計士に依頼してリニューアルしようと実際に図面も描いていたし。もちろん、お風呂の方は無くす方向で。そもそも温浴事業の売上は全体の2割ほど。おまけみたいな感じでしたし、私自身、10年以上お風呂に足を運ぶことがなかったくらいでしたから」
浅野さんがそう青写真を描きながら代表取締役に就任したのは2019年12月。社長として手腕を発揮しようと思っていた矢先に新型コロナウィルスの猛威が日本全国を襲う。岩手県にも次第に感染者が増え、2020年5月になると古戦場は営業自粛を余儀なくされた。夏が過ぎ、東北地方の秋の風物詩である「芋煮会」の季節になっても宴会の予約がまったく入らない。売上の8割を占める宴会・レストラン部門が壊滅的なダメージを受け、「私の代で古戦場は潰れる…」という悪夢が彼女の脳裏をよぎった。
大規模リニューアル構想も宙に浮いてしまった。売上が見込めない以上、今あるものに目を向けてサバイブするしかない。そんな時、浅野さんは過去の決算書を見てあることに気づいた。温浴部門の売上だけはコロナ禍以前と変化がない。そこで毎日通ってくれる常連客に聞いてみた。
「ここのサウナ、熱くて気持ちいいんだよねえ」