東京都あきる野市
都心から車で90分、東京あきる野の秋川渓谷にある大岳鍾乳洞。全国でも珍しい「私営」の鍾乳洞は、異界への入り口だった。
最寄りのICから【C4】首都圏中央連絡自動車道「あきるのIC」を下車
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目の前に、岩の穴がある。高さは60センチほどで、奥行きはそれほどでもない。でも、どう見ても、四つん這いにならないと通り抜けられない。もちろん、引き返すという手はあるけど、まずはチャレンジしてみよう。
足元に手と膝をつき、ヘルメットをかぶった頭をそっと穴に入れる。続いて、身体を通そうとしたら、背負っていたリュックが引っかかった。一度、もとの態勢に戻り、リュックだけ穴の先に置く。頭、手、身体の順番で穴に入る。穴の先が下りの斜面になっていて、そのまま身体を出し切ると前のめりに倒れることになりそうだ。どうにかして、足を外に出さなければいけない。
できる限り体を穴の外に出した状態で、穴の先に手をついて、左足を前に出そうとした。すると、足が穴につっかえた。一度もとの姿勢に戻そうとしたら、今度は靴が岩に引っ掛かった。ん!? 左足が前にも後ろにも動かない。
この時、僕は東京あきる野市の大岳山麓にある東京都の天然記念物、大岳鍾乳洞にいた。鍾乳洞とは、とてつもなく長い歳月をかけて雨水や地下水の浸食によってできた石灰岩の洞穴だ。
全長300メートルある大岳鍾乳洞のなかにいるのは僕ひとりで、もちろんスマホの電波は届いていないし、叫び声をあげても誰にも届かないし、そもそも僕は閉所恐怖症――という事実が瞬間的に脳内をよぎり、ドバっと汗が出てきた。
いやいや、落ち着こう。僕はケイビング(洞窟探検)をしているわけじゃない。大人も子どもも楽しめる鍾乳洞の見学コースを進んでいるだけだ。一般コースとチャレンジコースがあって、当然のようにチャレンジコースにを選んだけど、出られなくなるほどハードなはずがない――と、もうひとりの自分が脳内で呼びかけてくる。
後者の声が勝った。フーっと息を吐き、四つん這いの窮屈な態勢のまま身体を少し動かすと、左足がもとの位置に戻った。今度は思いっきり体を縮めるようにしながら左足を前に出すと、ギリギリ前に出た。はあ。もう大丈夫。