それから、6年。会社員時代とはまるで違う生活を送る嘉伸さんに、今の気持ちはどうですか? と尋ねると、「会社員を辞めてよかったです」と言った。
「ぜんぶ自分たちでやらなきゃいけないので、そのへんは大変ですけど、気持ち的には楽ですよね。上司もいないし、通勤時間は15分ぐらいだし(笑)」
「付き合うまで、彼の家が鍾乳洞をやっていると知らなかった」と笑う友美さんも、今は二人三脚で運営に当たる。夫婦で鍾乳洞を経営するなんて予想もつかない人生ですね、と言うと、ふふっとほほ笑んだ。
「付き合い始めた時から、彼はこっちの仕事をやりたいと言っていたし、結婚前からキャンプ場の受付のアルバイトもしていたから、一緒になったらお手伝いくらいするようになるのかなと思っていました。でも、ここまでとは思っていなかったですけどね(笑)」
新型コロナウイルスの感染拡大が始まってから、鍾乳洞の入場者は激減してしまった。それまでよく来ていた学校の遠足や団体旅行客が途絶えてしまったからだ。その一方、まったくひと気のない清流の河原で直火の焚火や川遊びを楽しめるキャンプ場は、「密」を避けるアウトドアブームによって注目を集めるようになり、たくさんの利用客が訪れるようになった。
「奥多摩は有名なんですけど、秋川渓谷はそんなに知られていなかったんですね。コロナになってから、キャンプの問い合わせがすごく増えました。都内から車で90分ほどでこれだけの大自然があるから、『近くて最高』って毎週のように来ているリピーターさんもいますよ」