キャンプ目当ての客は鍾乳洞のことをよく知らない人が大半で、現地に来てから「東京に鍾乳洞があるの!?」と驚くそう。せっかくだから試しに入ってみようという人も多く、なかでも子どもは大喜びするという。「もう一回入りたいという子が、たくさんいます。泣き叫ぶ子もいるぐらい(笑)」と友美さんに、「冒険気分が味わえるからね」と頷く嘉伸さん。
このインタビューを終えた後、鍾乳洞に潜入した僕は子どものテンションが上がる理由と「冒険気分」の意味を十分すぎるほど実感した。
現在、東京にある鍾乳洞で内部を見学できるのは、全長約800メートルと関東屈指の広さを誇る日原鍾乳洞(西多摩郡奥多摩町)と大岳鍾乳洞だけ。日原鍾乳洞は広々とした通路が整備されていて、内部は青や赤、紫などにライトアップされているというから、岩の隙間や割れ目をすり抜けていく大岳鍾乳洞とはまた違う雰囲気だろう。
立ったまま普通に歩ける高さ、広さの場所はほとんどなく、手元、足元を確認しながら慎重に進む。冒頭に記した通り、ここは本当に通り抜けられるのかと心配になるような場所もある。ケイビングを体験するようなスリルを味わえる鍾乳洞は、なかなかないはずだ。
所要時間は30分。でも、自然が作り出した奇景のなかは普段の生活の30分とはまるで密度が違う。水に溶けた炭酸カルシウムがつららのように垂れ下がる鍾乳石や、床に落ちてタケノコのようになった石筍、さらに古生代、中生代に栄えた深海の生き物ウミユリの化石があったり、コケのような植物が生えていたりと不思議な光景の連続。
地球の割れ目から内側に潜り込んで、普段は見ることのできない秘密をのぞいているような気がする。だから、案内通りに進むだけなのに、出口が見えてきた時には「現実へ戻る扉」に思えて、少しホッとした。
雄嘉造さんとユキさんが、大岳鍾乳洞の営業を始めてから今年で60年。嘉伸さんと友美さんが受け継いだこの稀少な天然記念物は、今日も誰かを異界のラビリンスに誘う。