山形県酒田市
ひとり旅なんていったい何年ぶりだろう。子どもを産んでからは、ひとりで出かけるという選択肢さえ思いつかなかった。2019年9月、それがどういうわけか上越新幹線の切符を握り、わたしはひとりホームにいる。山形県酒田市という、行ったことのない場所に向かうためだった。
最寄りのICから【E7】道央自動車道「酒田IC」を下車
最寄りのICから【E7】道央自動車道「酒田IC」を下車
正直に言うと、旅は嫌い。いや、旅のしたくが嫌いだ。
暑いのか寒いのかわからず洋服を必要以上に詰める作業とか、うちから東京駅まで時間通りに着くかわからないのに新幹線の予約をしなくてはならないところとか。どこでごはんを食べるのか、なにを注文するのか、どの道を通って行けばいいのか、調べまくって困らないようにしておかないと気が済まない性分で、旅に出るころにはもう疲れ果てている。しかもそうまでして行ったのに感動が薄い。当たり前だ、何度もインターネットの中で旅してしまっているのだから。
だから今回ばかりは最低限のことだけ調べようと決めた。失敗しても誰にも知られない。せっかくのひとり旅なんだからなるべく貪欲に、見るものすべてに感動したかった。
この旅でわたしが事前に予約したのは、新幹線の行きの切符と宿、そして郷土料理が食べられる日本料理店。荷物を持ったまま行動しなくてはならないから、鞄には下着と薄手の上着と一眼レフだけを入れた。信じられないくらいの心許なさだったけれど、お守りのように買った崎陽軒のシウマイ弁当とともに新幹線に乗り込んだ。
山形県酒田市は日本海に面している。地図を見てはじめて、山形県がびっくりするほど広いことを知った。「ついでに天童で伝統工芸でも見てこようかな」とか「米沢で米沢牛?」とか思っていたのがばかみたいで、位置的に新潟かなと思っていたところも山形県だったし、宮城かなと思っていたところも山形県だった。今回はひとまず酒田市にだけ行くと決め、新幹線で新潟に入って、そこから特急いなほで酒田に向かった。酒田にある土門拳記念館が、この旅の目的地だ。