もちろん迷った。
自慢じゃないけど人の話を長いこと覚えておけないし、方向音痴である。ただ、目標物は空に見えているのでそれを頼りに進んだ。住宅の向こうにも風車が見え、線路の向こうにも見える。東京生まれのわたしには不思議な景色で、妙に惹かれてしまうのだった。
信じられないくらい急な坂道を登った挙句、風車を見下ろせる小高い丘に着いてしまったり、狭い道を彷徨ったりしつつ、やっと見られた光景は本当にすばらしかった。風車はあまりにも巨大で、わたしは透明な海に足を浸しながらしばらく眺めた。カニがいて、ヤドカリがいた。運動している人がいて、磯遊びをしている親子がいた。
あんなに大きいものが頭上で回転しているのに音ひとつせず、くるくる回っている姿は優雅だった。空と海はつながっていて、天と地はつながっている。そんなふうに思える景色だった。
さて、展望台は古びていて、客はわたししかいなかった。入口でおじさんがいろいろ説明してくれたのだが、めちゃくちゃ暑いのにクーラーがかかっていなかったもんで投げやりに聞いて投げやりに上まで行き、数枚の写真を撮って慌てて外に出た。そしていったん戻り、おじさんにどこかでおいしいお昼ごはんが食べられないかと尋ねたら、海鮮丼が食べられる店の地図を書いてくれたので、それをひらひらと左手になびかせながら自転車を飛ばした。
混んでいるかもしれないと言われた通り、店には長蛇の列ができていた。海鮮丼がわたしの前にやってくるまでに1時間はゆうにかかったけれど、あんなに人々がくっつきあっていられなくなってしまったいま、その光景がとても愛おしい。おいしい海鮮丼を食べたい一心で、おなかをぐうぐういわせながら我慢して並ぶ人たち。すでに食べている人を横目で羨ましく見、すでに食べている人の側は少し申し訳なく思う。そんな当たり前な記憶も、いまは貴重だ。