未知の細道
未知なる人やスポットを訪ね、見て、聞いて、体感する日本再発見の旅コラム。
195

『旅の思い出』編 山形で五感をひらく。感覚でめぐる。 土門拳記念館からはじまるひとり旅

文= 吉川愛歩
写真= 吉川愛歩
未知の細道 No.195|11 October 2021
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#7旅の終わり

海鮮丼を平らげて帰り道を調べると、ぼちぼち帰路に向かう時間が近づいていた。せっかくなら行きとは違うルートで帰れないか調べてみる。すると、酒田から新庄まで最上川に沿って走っている羽越線・陸羽西線という普通電車に乗ると、そこから山形新幹線つばさに乗れることがわかった。行きより時間はかかるけれど、これで帰ることにした。

それがもう大当たりで。
ちょうど陽が落ちてきているなかで、向こうの向こうの向こうまで金色に光る田んぼがずうっと見えて、風力発電の風車が何機も回り、ときおり最上川に出て、ただひたすら窓の外を眺めていた。じっくりと薄暗くなってきていたものが、最後は糸で引っ張られるようにしてしゅっと太陽が落ち、真っ暗になったころ新庄に着いた。

旅の終わりは心残りが山ほどある。もっと時間を切り詰めればあそこに行けたかもしれないとか、あれも食べておくんだったとか。出不精なわたしがこの次いつ旅に出ようとするか、考えただけでも遠い感じがするから余計だ。

でも、終わってしまったものは仕方ない。酒田で買った玉こんにゃくに月山(がっさん)ビールという地ビールを飲み、東京を目指した。山形新幹線を満月がずっと追いかけてきていて、建物に邪魔されながら発光信号のようになにか合図している。見ているうちに眠くなり、起きたら東京だった。

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未知の細道とは

「未知の細道」は、未知なるスポットを訪ねて、見て、聞いて、体感して毎月定期的に紹介する旅のレポートです。
テーマは「名人」「伝説」「祭り」「挑戦者」「穴場」の5つ。
様々なジャンルの名人に密着したり、土地にまつわる伝説を追ったり、知られざる祭りに参加して、その様子をお伝えします。
気になるレポートがございましたら、皆さまの目で、耳で、肌で感じに出かけてみてください。
きっと、わくわくどきどきな世界への入り口が待っていると思います。