北海道上川郡美瑛町
ある日、雑誌に掲載されていた竹製の釣竿「バンブーロッド」に一目ぼれ。そのバンブーロッドを作る職人を訪ねて、北海道へ――。
最寄りのICから【E5】道央自動車道「滝川IC」を下車
最寄りのICから【E5】道央自動車道「滝川IC」を下車
7月某日、北海道・美瑛の道の駅 「白金ビルケ」から少し先に車を止め、美瑛川の支流におりた。天気は曇り、川の流れは速い。ウェーダー(釣り用の防水ビブパンツ)をはいた望月雄太さんは、慎重に、でも素早く川をさかのぼっていく。時折、ピーっと吹く笛はクマ避けだ。思った以上に強い川の流れに押し流されそうな僕は、その後ろをヨタヨタとついていく。
望月さんは、ところどころで竹製の竿「バンブーロッド」を振る。すると竿が風に吹かれた稲穂のように自在にしなり、竿先を追いかけて、糸がヒューンと川面に飛んでいく。その一連の動きには無駄がなく優雅で、思わず見とれてしまう。
望月さんは、日本に10人もいないという専業でフライフィッシング用のバンブーロッドを作る「バンブーロッドビルダー」。僕はフライフィッシング未経験、もちろんバンブーロッドの知識も皆無ながら、ある雑誌で望月さんのバンブーロッドの写真を見て、ミニマムなデザインと上品なたたずまいに惹かれ、取材を申し込んだ。その時に、「実際に釣りをしているところを見てみたい」というお願いをしたところ、釣りに同行させてもらうことになった。
読者にも、フライフィッシングってなに? という方が少なくないだろうから、ここで簡単に説明しよう。ニジマス、イワナなどの川の魚はカゲロウ、トビケラなどの水棲昆虫や水面に落ちた陸生昆虫をエサにしている。「フライ」とはこれらの昆虫に似せて作った毛ばりのことを指し、このフライで魚を釣るスポーツがフライフィッシング。歴史を遡ると、古代ローマの著述家、クラウディウス・アエリアヌスがおおよそ1800年以上前にローマ帝国時代に記した著書『De Natura Animalium(動物の本性)』のなかで、毛ばりを使った釣りが行われていたことを紹介している。時を経てイギリスで貴族の遊びとして親しまれ、アメリカでスポーツとして発展していった。
フライフィッシングには主に2種類の釣り方があり、「フライ」を水面に流して釣るのがドライフライフィッシング、水中に沈めて釣るのがウェットフライフィッシング。望月さんが作るバンブーロッドは水面の昆虫を食べる魚を狙うドライフライフィッシングに特化している。
取材の日は午後から雨の予報で風も出ていて、釣りに向いた天気ではなかった。気温が低いと虫の動きが活発化しないので、魚たちがエサを食べに浮き上がってこないのだ。「普段なら、この天気だと釣りには来ないんです。ぜんぜん魚の姿が見えないですね」と苦笑していた望月さんだが、その視線は鋭く、「釣ってみせる」という静かな気迫を感じた――。