そのオリジナリティは、素材から製法まで多岐にわたる。例えば、バンブーロッドの素材としてゴールデンスタンダードは中国産のトンキンケーンという竹だ。しかし、望月さんは九州にある特定の山で採れた竹を使う。その竹のほうが「しなやかさと粘りが明らかに違う」そうだ。購入した竹は、最低でも5年間、乾燥させる。水分量は10%がベストで、定期的に水分量を調べて竿にするタイミングを見極める。
裏表のないまっすぐな性格を表現する竹を割ったような性格という言葉があるが、望月さんによると、鉈で竹を割ると曲がっている。そのまま使うと、竹を削る時に繊維を絶ってしまって竿の強度が弱くなるので、熱をかけてまっすぐにしてゆく。1本に20時間ほどかかるこの「曲げ取り」こそ、望月さんの竿の生命線だという。
「曲げ取りはすごく地味な作業で、最も重要なパートです。繊維を手元から竿先までつなげることで、設計したデザイン通りのアクションの竿になります」
曲げ取りをした竹にカンナをかけ、0.001インチ(0.0254ミリ)単位で三角形に削っていく。それを6本作ってまとめると、一本の六角の棒になる。それをオーブンに入れて176度になると、竹のケイ素という成分が炭化して張りが出る。さらにその六角の棒をテーパー状(径・幅・厚みなどが、先細りになっている状態)に削っていく。竿の先端は、1ミリ強の細さだ。このテーパーの加減や柔らかすぎず硬すぎない竿の強度に、望月さんがフィールドで得た感覚が活かされている。
さらに、竿の内部は中空構造になっている。竹は嵐の日も、大雪の日も折れず、まっすぐに戻る。円形の空洞になっている内部が暴風や雪の重みで曲がると楕円形になり、反発して円形に戻る力が働くからだ。竹の反発力を再現するために、三角形に削った竹のひとつの山を削り、その部分を内部に向けて6本を合わせ、中空を作る。この中空構造はほかのバンブーロッドにも取り入れられているが、望月さんはなるべく自然の竹の構造に近づけるために、さらに工夫を加えている。そこもまたオリジナルだ。
ここに書き記したのは、望月さんのこだわりのごく一部に過ぎない。その手仕事は極めて繊細で、1本の竿を作るのにだいたい1カ月はかかる。そのクオリティは口コミで広がり、一切広告を打っていないも関わらず、一番手ごろなもので1本22万円、高いもので50万円する望月さんのバンブーロッドを求めるフライフィッシャーは後を絶たない。